観測記録を大幅更新!65億光年彼方の単独の星を多数発見

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重力レンズを利用した観測から、65億光年離れた遠方銀河内に40個以上の恒星が発見された。遠方銀河内の単独星の発見数としては過去最多となる成果で、銀河の進化やダークマターの正体を研究する上で有意義な手がかりが得られそうだ。

【2025年1月15日 千葉大学アリゾナ州立大学

銀河は多数の恒星が集まった天体であり、私たちが存在する天の川銀河や250万光年離れたお隣りのアンドロメダ座大銀河では、その星1つ1つを分離して観測できる。しかし、何億光年も離れた遠方銀河では個々の星が見かけ上とても暗くなってしまい、解像度も足りないため、1つずつ分離して観ることは難しい。

近年では遠方銀河内部の個々の星を観測する手法として重力レンズを用いた手法が開発され、大きな進展が得られつつある。多数の銀河が集まった銀河団の重力がレンズの役割を果たして、その背景にある遠方銀河の星を数千倍も明るく見せてくれるのだ。しかし、こうした重力レンズを利用した観測でも、従来は遠方銀河に存在する星が数個程度しか検出できていなかった。遠方銀河の個々の星を分離して観測できれば、宇宙の初期から現在までの銀河の進化に関する大きな手がかりが得られることから、より多くの星の検出が望まれていた。

千葉大学先進科学センターの札本佳伸さんたちの研究チームは、くじら座の方向約40億光年彼方の銀河団「Abell 370」の背景に位置する、65億光年離れた銀河に着目した。この遠方銀河はAbell 370の強力な重力レンズ効果によって見た目が引き伸ばされていて、「ドラゴン」の愛称で知られている。

Abell 370
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえたAbell 370。重力レンズ効果によって背景の遠方銀河が弧状に変形して見えている。「ドラゴン」は中央左下にある(提供:NASA)

札本さんたちはジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)で2022年と2023年に撮影された画像を慎重に解析し、ドラゴン内に44個の星を発見した。遠方銀河内の個々の星をとらえた観測としてはこれまでの記録を大幅に塗り替えるもので、遠方銀河内の星に対して統計的な研究が行えることを実証する成果となる。「わずか1年間隔で撮影された画像の中で、星が蛍の光のように現れたり消えたりしていました。これほど多くの星をJWSTがとらえるとは夢にも思いませんでした」(米・アリゾナ州立大学 Rogier Windhorstさん)。

星の明るさの変化
(上)JWSTが撮影したドラゴン。(下)ドラゴンの左側の領域で、1年おきに2回観測した画像の比較。2022年に写っていた星が2023年の観測では見えなくなっていたり、反対に新たに現れたりしている(提供:千葉大学リリース)

今回発見された星の色を詳しく解析したところ、その一部がオリオン座のベテルギウスのような赤色超巨星であることがわかった。これまでに重力レンズで発見された遠方銀河内の星の多くはリゲルのような青色超巨星であったことから、この点でも新たな発見である。

札本さんたちは今後Abell 370とドラゴンをさらに詳しく観測し、より多くの個々の星を詳細に調べようとしている。明滅する星の分布を調べるとダークマターの正体に迫ることができる可能性もあり、応用に向けた詳細な解析も進めていくという。

重力レンズ効果を利用した観測の概念図
重力レンズ効果を利用した観測の概念図。40億光年離れた銀河団の(マクロな)重力レンズ効果と、銀河団内の星の重力マイクロレンズ効果によって、65億光年彼方の銀河内の星の光が増幅した(提供:札本佳伸)

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