二重クエーサー像の観測から推定するハッブル定数

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重力レンズ効果によって複数像に見えるクエーサーを利用して、宇宙の膨張率を表すハッブル定数を推定した研究結果が発表された。

【2019年1月29日 カリフォルニア大学ロサンゼルス校

宇宙がどのくらいの速度で膨張しているのかを表す「ハッブル定数」は、遠方銀河の大きさや宇宙の年齢を決定するうえで重要な値だ。様々な観測によってその正確な値を知る研究が続けられており、推定値は67-73km/s/Mpc(1メガパーセク(約326万光年)離れた2点間の距離が毎秒67-73km広がる)の範囲にあるものの、確実な答えはまだ得られていない。

ハッブル定数を導出する方法のほとんどは、天体までの距離と、その天体の後退速度(私たちから遠ざかる速度)の2つの情報を元にしている。米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のSimon Birrerさんたちの研究チームは、これまでにハッブル定数の距離の計算に利用されていない光源として、クエーサーを用いた研究を行った。クエーサーとは、中心の大質量ブラックホールによって莫大なエネルギーを中心部から放射し明るく見える銀河である。

Birrerさんたちがとくに注目したのは、1つのクエーサーの像が複数になって見えているような天体だ。

クエーサーと私たちとの間に別の銀河が存在すると、その中間の銀河の質量が生み出す重力レンズ効果によって、クエーサー像が複数に見えることがある。もしクエーサーの明るさが変動すると、レンズ効果を受けた像の明るさも変わるが、地球まで届く光の経路が異なるため、それぞれの像の明るさは同時ではなく時間差で変動する。この時間差の情報などを元にすると、クエーサーと中間の銀河までの距離を推定することができるので、そこからハッブル定数を計算できる。

研究チームでは、「H0liCOW collaboration」と呼ばれる国際的なプロジェクトの一環で四重クエーサー像を用いてこの手法を実証しようとしていたが、四重の像は発見例が少ないため、まず二重クエーサー像で研究を行った。対象となったのは、りょうけん座とおおぐま座の境界付近に存在する二重クエーサー「SDSS J1206+4332」だ。

二重クエーサー像
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した二重クエーサーSDSS J1206+4332(提供:NASA Hubble Space Telescope, Tommaso Treu/UCLA, and Birrer et al.)

ハッブル宇宙望遠鏡やジェミニ望遠鏡、ケック天文台の観測データなどを用いた研究の結果、Birrerさんたちはハッブル定数の値を72.5km/s/Mpcと導き出した。これは、遠方の超新星を距離指標として用いた計算から得られている値とよく一致する。しかし今回の値も超新星観測による値も、宇宙マイクロ背景放射の観測結果に基づく値より約8%大きい。「方法によって値が異なるのが本当のことだとしたら、それはこの宇宙がもう少し複雑であることを意味しています。しかし、3つのうち1つか、あるいは3つすべてが正しくない可能性もあります」(米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校 Tommaso Treuさん)。

今回の方法の利点は、他の方法とは独立に、かつ他の方法を補うような形で、ハッブル定数を測定できるというところにある。研究チームではすでに四重クエーサー像を40個も見つけており、これらを対象とした解析からハッブル定数の精度向上を目指している。

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