パーカー・ソーラー・プローブの初期成果、太陽の折れ曲がる磁場や塵の穴を観測

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NASAの太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」が3回の太陽フライバイで得た最初の科学成果が発表された。

【2019年12月12日 NASAカリフォルニア大学バークレー校

2018年8月12日に打ち上げられたNASAの太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」は、太陽コロナの中に突入して太陽半径のわずか8.5倍にまで接近しようという史上初の探査機だ。遠日点(軌道上で太陽から最も離れる点)が金星軌道のやや外側に達する楕円軌道を回りながら、2025年までに太陽へのフライバイ(接近通過)を24回繰り返し、徐々に近日点を太陽に近づける予定だ。これまでに3回のフライバイを終えており、従来の理解を大きく変える複雑で活動的な太陽の姿を早くも明らかにしつつある。

スイッチバックする太陽磁場

パーカー・ソーラー・プローブ(以降「PSP」)の磁場観測装置「FIELDS」によって、太陽風に付随している磁場の向きが、数秒から数分間にわたって逆転する現象が観測された。「スイッチバック」と名付けられたこの逆転現象が起こっている間は、磁場が揺れ動いて、通常とはほぼ正反対の太陽方向を向いてしまう。

スイッチバックのイメージ動画
磁場の折れ曲がりが外へ伝わる「スイッチバック」のイメージ動画(提供:NASA's Goddard Space Flight Center/Conceptual Image Lab/Adriana Manrique Gutierrez)

スイッチバック現象は、PSPの最初の2回の太陽フライバイの間に何回も観測された。その源は不明だが、PSPの観測によってある程度可能性を絞り込むことができている。

太陽からは高速の電子が吹き出しているが、この電子は磁力線に沿って運動する性質がある。磁力線のN極の方向が太陽に向かう向きでも遠ざかる向きでも関係なく、電子は磁力線を正確になぞるように動くのだ。しかし、PSPの観測データによると、スイッチバックが起こっている間は電子の流れ自体も逆転し、太陽に向かって流れていることがわかった。探査機がたまたま逆方向に向いた2本の磁力線を立て続けに横切ったのではなく、磁力線自体が「Z」の字のように折れ曲がっているはずだ。したがって、スイッチバックは、磁場が太陽から離れるにつれて変化するというよりは、磁力線の局所的な折れ曲がりが伝わっていく現象のようだ。

今後、探査機がさらに太陽に近づくようになれば、スイッチバックもより多く観測される可能性がある。来年1月29日に予定されている次の太陽フライバイで、スイッチバックの謎を解く手がかりが得られるかもしれない。

太陽風のらせん

地球付近で観測される太陽風は、太陽からまっすぐ吹いてくるように見える。しかし実際には太陽は自転しているため、太陽表面から吹き出した直後の太陽風は、しばらくは太陽表面と一緒に回転する。つまり、太陽系を上から見ると、太陽風の流れは太陽のごく近くでは放射状ではなく、らせん状になっている。太陽から地球までの間のどこかで、太陽風が回転運動から放射状の運動に移り変わる場所があるはずだ。この場所を突き止めれば、太陽がどのようにエネルギーを放出しているのかが詳しくわかり、太陽以外の恒星の一生や原始惑星系円盤の形成についてより理解を深めるヒントになる。

今回、PSPによって、太陽の光球とともに自転する太陽風が初めて観測された。太陽風の自転は太陽から3200万kmの位置で検出され、探査機が太陽に近づくほど回転速度が増していることが明らかになった。この回転速度はこれまでの予想よりもずっと大きく、また回転運動が放射状の運動に移り変わる場所も太陽にずっと近かった。

太陽周辺の「塵の穴」

太陽系の中は多くの塵が存在している。この塵は、数十億年にわたる太陽系の歴史の中で、微惑星が衝突して惑星や彗星・小惑星を形作った残りかすのような物質だ。こうした塵は太陽のごく近くでは太陽光で熱せられて気体に昇華するため、太陽の周囲には塵が存在しない領域が存在するのではないかと長年考えられてきた。しかし、これまで実際にそのような領域が観測されたことはない。

今回、PSPの撮像装置「WISPR」によって、太陽の周囲で塵が減り始める領域が初めてとらえられた。観測データによると、塵は太陽から約1100万kmの距離から減り始め、約640万kmの位置でほぼ検出限界まで減っていた。この分布から推定すると、太陽から300~480万kmの距離より内側は完全に塵が存在しない領域になっているかもしれない。来年PSPはフライバイでこの領域内に入るため、「塵の穴」を実際に観測できる可能性がある。

塵がない領域のイラスト
塵がほとんどない太陽周辺領域のイラスト(提供:NASA's Goddard Space Flight Center/Scott Wiessinger)

高エネルギー粒子の放出

太陽では、光速近くまで加速された電子やイオンが突発的に放出される現象が起こる。放出される粒子はきわめて大きなエネルギーを持つ放射線であり、人工衛星や探査機の電子機器を損傷したり宇宙飛行士の生命に危険を及ぼしたりする。とくに、地球の磁場によって守られていない深宇宙ではこの影響は深刻で、将来の有人火星ミッションなどでは太陽の高エネルギー粒子から乗組員をどう守るかが課題となっている。

太陽の粒子がどのようにしてこれほど高いエネルギーにまで加速されるのかはよくわかっていない。粒子が地球に届くころには、加速される環境やプロセスの痕跡はすでに失われているからだ。

今回、PSPに搭載されている高エネルギー粒子観測装置「ISʘIS」によって、これまでにとらえられたことのない高エネルギー粒子現象が数回観測された。また、重元素を大量に含む珍しいタイプの粒子放出現象もとらえられている。「現在太陽活動は極小期に当たっていますが、このような時期でも小規模な高エネルギー粒子の放出が予想以上にたくさん起こっていて驚きました。こうした観測が、高エネルギー粒子の起源や加速・輸送メカニズムの解明につながるでしょう」(米・プリンストン大学 ISʘIS主任研究員 David McComasさん)。

また、WISPRでも、コロナや太陽風、コロナ質量放出などの細かい構造をとらえることに成功している。「PSPのフライバイ速度は太陽の自転と同期しているので、質量放出やコロナの構造の変化を数日にわたって観察することができます。これまでの地球近傍での観測から、コロナに見られる微細な構造が外部の滑らかな流れへとつながっていると考えられてきました。しかし私たちの観測で、そうではないということが明らかになりつつあります。こうした発見は、太陽と地球との間で様々な現象がどのように伝わっていくのかをより正確にモデル化することに役立つでしょう」(WISPR主任研究員 Russ Howardさん)。

PSPのカメラがとらえたコロナの構造の変化(提供:NASA/JHUAPL/Naval Research Lab/Parker Solar Probe)

PSPは今後あと21回のフライバイを予定しており、徐々に近日点距離を縮めながら、最後の3回のフライバイでは太陽表面からわずか約600万kmの距離まで接近する。

PSPの初期成果の紹介動画(提供:NASA's Goddard Space Flight Center)