100年前の黒点観測記録が太陽活動の長期変動の研究に貢献
【2023年12月11日 「長野県は宇宙県」】
太陽の活動の強弱は、地球の気候変動や生態系などに影響を及ぼす。また、通信や送電、人工衛星の運用など日常生活にも影響があり、太陽活動を理解することはとても重要だ。
太陽の活動を数世紀単位の長期間でとらえる際に指標となるのが、黒点の数が多いほど太陽の活動が活発であることを示す「黒点相対数」である。この指標に最新の数理モデルや観測知見を当てはめることで、過去の太陽活動の復元や将来の太陽活動の予測が行われている。
ただし、個々の観測者の黒点観測データは長くても数十年で、使用する観測機材などによって黒点の検出基準が変わってくるため、長期変動を理解するには、個別の観測者による黒点相対数を較正した指数「国際黒点相対数」が用いられる。この指標を長期で構築する上で重要となるのが、長期安定観測者の黒点相対数データの相互較正だ。太陽活動の復元研究では、再較正結果が研究ごとに食い違うことも少なくないが、2014年以降に行われた国際黒点相対数や黒点群数の本格的な再較正では、国立科学博物館の小山ひさ子さんの観測記録が太陽黒点数の長期的な再較正に大きく貢献した。
そのようななか、20世紀初めごろについては太陽観測の公開データが限られており、個別データの安定性評価や再較正が重要な課題となっていた。そこで、名古屋大学の早川尚志さんたちが参加する市民科学プロジェクト「長野県は宇宙県」の連絡協議会は、長野県に残る黒点観測の記録を調査し、この記録の安定性や国際黒点相対数の較正に寄与しうるかどうかを確認した。
観測記録を残したのは長野県立諏訪中学校(現・諏訪清陵高校)の教師だった三澤勝衛さん(1885~1937年)だ。三澤さんによる1921年から1934年までのデータが同校に保管されていたが、これまでは国際科学コミュニティのデータベースに反映されておらず、国際黒点相対数の構築にも利用されていなかった。
調査の結果、三澤さんによる記録がひと月あたり25.4日間という高頻度の観測によるもので、同時代のスイス・チューリッヒ基幹観測者の観測密度に匹敵する水準であることが明らかになった。とくに冬場は、チューリッヒの観測データよりも観測日数がかなり多く確保されていた。また、三澤さんの太陽黒点相対数と現在の国際太陽黒点相対数との比較から、観測期間にわたる長期安定性が確認された。長期的な太陽変動に関する参照データとして三澤さんの記録が重要であることを示す結果だ。
三澤さんの記録の活用により、世界的に長期観測データの整備が進んでいない期間のデータ状況が改善され、太陽活動の長期変動の理解における根本データが改良されることが期待される。
〈参照〉
- 「長野県は宇宙県」:約100年前の太陽黒点観測が最新天文学に貢献 - 長野県の旧制諏訪中学校の教師、三澤勝衛の約100年前の太陽黒点観測が最新天文学に貢献 ~太陽活動の長期変動復元の向上へ
- MNRAS:Katsue Misawa’s sunspot observations in 1921~1934: a primary reference for the Wolfer-Brunner transition 論文
〈関連リンク〉
- 「長野県は宇宙県」
- 「市民科学」プロジェクト
- 理科年表:天文部「太陽の黒点相対数」をくわしく解説!
- アストロアーツ:
- 星空ガイド:太陽投影板を使った太陽観測(3)- 4 観測でわかること「黒点相対数」
- 天体写真ギャラリー:太陽
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