ガイアのデータで描く太陽の未来
【2022年8月17日 ヨーロッパ宇宙機関】
現在、太陽の年齢は約45億7000万歳で、人間で言えば中年期に相当すると言われている。太陽の中心では水素をヘリウムに変換する核融合反応が起こっており、そのエネルギーによって安定して輝いているが、長い時間が経てば、この水素が尽きて不安定な状態に突入する時が来る。それはいつになるだろうか。
恒星の進化を考察する際によく使われるのがヘルツシュプルング・ラッセル図(HR図)だ。HR図は横軸に星のスペクトル型(またはそこからわかる星の表面温度)、縦軸に絶対等級(または太陽を基準とした光度)をとった図であり、その中で恒星は質量や年齢に応じて一定の分布をすることがわかっている。
仏・コートダジュール天文台のOrlagh Creeveyさんたちの研究チームは、ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星「ガイア」の観測データDR3から質量と組成が太陽と一致する恒星を選び出してHR図を作成した。今年6月に公開されたDR3では数億個の恒星について、位置や距離だけでなく、表面温度や光度も高い精度で得られる。
質量や組成が太陽と同じでも温度や光度はそれぞれに異なるが、この違いは恒星の年齢に対応する。つまり、Creeveyさんたちが作成したHR図からは、太陽が生涯の内にたどる道が浮かび上がる。研究の結果、太陽は約80億歳で最高温度に達した(HR図で最も左寄りになった)後、徐々に冷えて大きくなり(HR図を右に移動し)、100~110億歳くらいで赤色巨星になることがわかった。さらにその後、太陽は寿命を迎え、やがて薄暗い白色矮星となる。
この他にも、質量や組成だけでなく年齢まで太陽に近い、つまり温度や大きさも太陽と同じ恒星5863個が厳選され、今後詳しく調べるターゲットとされた。太陽は地球に近すぎるがゆえに、皮肉にも他の恒星と同じ方法で観測ができないという問題があるが、太陽に似ている恒星を遠くから調べることで、この問題はある程度克服できる。「自分たちの太陽を理解できなかったら、どうしてこの素晴らしい天の川を形作る他の恒星を理解できるでしょうか。そして実際、太陽についてわからないことは多いのです」(Creeveyさん)。
〈参照〉
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/10/23 天体望遠鏡とHα太陽望遠鏡の1台2役「フェニックス」新発売
- 2024/04/22 最も重い恒星質量ブラックホールを発見
- 2024/04/02 太陽の極は赤道に比べて7℃暖かい、「傾圧不安定波」の観測から判明
- 2024/01/19 天の川銀河の折り重なる磁場を初めて測定
- 2023/12/22 2024年1月1日 初日の出
- 2023/12/11 100年前の黒点観測記録が太陽活動の長期変動の研究に貢献
- 2023/09/06 インド、初の太陽観測衛星の打ち上げに成功
- 2023/06/29 太陽の熱対流が磁場をねじり、フレアを起こす
- 2023/05/10 太陽フレアが生命の材料を作った可能性
- 2023/04/21 アストロメトリと直接撮像の合わせ技で系外惑星を発見
- 2023/01/16 太陽黒点を自動で数える新手法
- 2023/01/11 一人で40年、世界屈指の安定性を誇る太陽観測記録
- 2022/11/22 実験室でミニチュア太陽フレアを生成
- 2022/09/20 太陽磁場の反転現象「スイッチバック」の謎を解明
- 2022/07/08 太陽コロナを効率的に加熱するマイクロフレア
- 2022/06/17 天の川銀河の大規模調査、ガイア第3期データの完全版公開
- 2022/03/24 太陽型星では大気の加熱メカニズムは普遍的
- 2022/03/07 太陽コロナの特殊なイオンを実験室で生成
- 2022/03/03 太陽表面の乱流運動を深層学習でとらえる
- 2022/02/25 天の川銀河に未知の衝突の痕跡