太陽磁場の反転現象「スイッチバック」の謎を解明

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探査機「ソーラーオービター」が太陽に最接近した際の観測から、50年近く前から知られている太陽磁場の反転現象「スイッチバック」の発生メカニズムが明らかになった。

【2022年9月20日 ヨーロッパ宇宙機関

1970年代半ばに米独の探査機「ヘリオス」が太陽に接近した際、太陽の磁場が突然反転する様子が記録された。この現象は突然始まり、数秒から数時間で磁場の方向は元に戻るというもので、1990年代後半には米欧の探査機「ユリシーズ」も同じ現象を確認している。

さらに2018年、NASAの探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」による観測で、その磁場反転が太陽に近いほど多いことが明確に示され、原因が磁場のS字型のねじれにあることが示唆された。この現象は「スイッチバック」と呼ばれるようになり、形成のメカニズムについてはこれまでに多くのアイディアが出されている。

スイッチバックのイメージ動画
スイッチバックのイメージ動画(提供:NASA's Goddard Space Flight Center/Conceptual Image Lab/Adriana Manrique Gutierrez

水星軌道よりも内側まで太陽に近づいて観測を行うヨーロッパ宇宙機関の探査機「ソーラーオービター」は太陽最接近直前の2022年3月25日に、太陽の外層大気であるコロナをとらえた。その画像の一つで、コロナのプラズマに歪んだS字型のねじれが見られた。伊・トリノ天文台/伊国立天体物理学研究所のDaniele Telloniさんたちの研究チームは、これがスイッチバックではないかと考えた。

Telloniさんたちは詳細なスペクトル分析を行い、磁力線が開いている領域と閉じている領域との相互作用からスイッチバックが起こることを確認した。これは研究チームの一員であるGary Zankさん(米・アラバマ大学)が2020年に提案した、太陽表面における開いた磁場と閉じた磁場の相互作用に着目したアイディアを裏付けるものだ。

スイッチバックの生成メカニズム
2020年に提唱されたスイッチバックの生成メカニズムのイラスト。(a) 太陽の活動領域にある開いた磁力線と閉じた磁力線。閉じた磁力線は、太陽大気中に向かって弧を描いてから、太陽に向かって丸く曲がって戻る。開いた磁力線は、太陽系の惑星間磁場とつながる。(b)開いた磁場領域が閉じた磁場領域と相互作用すると、磁力線がつながり、ほぼS字型の磁力線が形成されてエネルギーが爆発的に増加する。(c)磁力線が磁気リコネクションとエネルギー放出に反応してねじれ、それが外側に向かって伝搬する(スイッチバック)。同様のスイッチバックは、反対方向にも送られ、磁力線を下って太陽の中に入っていく(提供:Zank et al. (2020))

さらに、他の研究チームと協力してスイッチバックによるコロナのふるまいをモデル計算で再現したところ、今回の観測と驚くほどよく似た結果となった。「太陽コロナ内での磁気スイッチバックをとらえた最初の画像が、その起源の謎を明らかにしたと言えます」(Danieleさん)。

スイッチバックの発生メカニズムを知ることは、太陽風がどのように太陽から加速、加熱されるのかを理解する上での一歩となりそうだ。「まさに私たちがソーラーオービターに期待していた成果です。軌道を1周するごとに、搭載された10個の観測装置からさらなるデータが得られます。今回のような成果をもとに、次の太陽接近で計画されている観測を微調整し、太陽が太陽系の広い磁気環境とどのようにつながっているかを理解したいと思っていたいます。今後も多くのエキサイティングな成果が得られると期待しています」(ESAプロジェクトサイエンティスト Daniel Müllerさん)。

今回の研究成果の紹介動画「Solar 'switchback' captured for first-time ever」(提供:ESA)

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