天の川銀河の元素組成を調べる鍵、近赤外線における吸収線を多数同定
【2021年6月2日 京都産業大学】
はるか遠くの星に水素や酸素、鉄といった元素が存在するのがわかるのは、各元素には特定の波長の光を吸収する性質があるからだ。恒星の核融合エネルギーで生み出される光は連続スペクトルだが、星の内部から発された光が星の大気を通過すると、大気中の元素が吸収した波長だけが暗くなる。その光をプリズムなどに通してスペクトルを調べると、元素に対応した波長が暗い縞のようになっている。これは元素の吸収線と呼ばれ、観測天文学における要の知識だ。
京都産業大学の福江慧さんたちの研究グループは、6つの元素に対応する191本の吸収線を新たに同定することに成功した。
福江さんたちはアルクトゥールス(うしかい座α星)とラサラス(しし座μ星)という2つの恒星について、京都産業大学神山天文台の荒木望遠鏡に搭載された近赤外線高分散分光器「WINERED」で2013年2月に取得された高精度なスペクトルのアーカイブデータを分析した。どちらの恒星も表面温度が摂氏4000-4300度程度のK型赤色巨星で、多くの種類の吸収線が見られる。これまでの観測研究で可視光線の吸収線から元素組成がわかっており、2つの星では金属量が大きく異なることから、それぞれを比較することで赤外線波長における吸収線の同定が可能となる。
今回新たに同定されたのは、Mg(マグネシウム)、Si(ケイ素)、Ca(カルシウム)、Ti(チタン)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)の吸収線だ。研究チームは2019年に発表した論文でFe(鉄)の吸収線107本を同定しており、これと合わせて298本の原子吸収線をリストにまとめた。そこから求められるアルクトゥールスとラサラスの元素組成は、可視光線の吸収線から割り出した組成と誤差範囲で一致している。
赤外線は可視光線と比べて星間物質の塵を透過しやすい性質があるため、暗黒星雲などに阻まれやすい天の川銀河の中心方向の恒星についても元素組成を調べることができる。今回の研究成果は、個々の恒星のみならず、天の川銀河全体における元素の変化の歴史を調べる上で役に立つと期待されている。
〈参照〉
- 京都産業大学:近赤外線波長における原子吸収線カタログを作成し、恒星の元素組成を高精度に測定
- The Astrophysical Journal:Absorption Lines in the 0.91-1.33μm Spectra of Red Giants for Measuring Abundance of Mg, Si, Ca, Ti, Cr, and Ni 論文
〈関連リンク〉
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