WINEREDで観測、近赤外線波長域のA型星ラインカタログ
【2018年12月3日 京都産業大学】
宇宙に存在する様々な恒星は、恒星表面の温度が高いものから順にO型、B型、A型、…、M型といったタイプに分類されている。太陽は表面温度が摂氏約6000度の、G型の恒星だ。
その中で、ベガやシリウスなどが含まれるA型星は、目立った吸収線のない最もシンプルなスペクトルのパターンを持っている。この特徴から、A型星は赤外線天体観測において、天体の明るさ(エネルギー)の基準として用いられたり、地球大気による吸収線を天体のスペクトルから除去する際の参照天体として利用されたりしてきた。
しかし、シンプルなはずのA型星のスペクトルにも、赤外線波長域では非常に細かな吸収線が多数存在していると予想されていた。だが、十分に高い精度を持つ観測装置が存在しなかったために、研究が進んでこなかった。
京都産業大学神山天文台・赤外線高分散ラボ(LiH)の鮫島寛明さんたちの研究チームは、LiHが中心となって開発した世界トップクラスの波長分解能と精度を誇る高精度近赤外線高分散分光器「WINERED」を神山天文台の口径1.3m荒木望遠鏡に取り付けた観測により、A型星における微弱な吸収線をリストアップしてカタログ化することを目指した。
鮫島さんたちは地球から約250光年の距離にある5等星のA型星「やまねこ座21番星(21 Lyn)」を観測ターゲットとした。より微弱な吸収線を検出するためには、自転速度の遅い恒星を観測する必要があり、この星がまさにその目的に適していたためだ。
その結果、極めて精密なA型星の近赤外線高分散スペクトルが取得され、微弱なものを含む219本もの吸収線が世界で初めて検出された。これらの吸収線は、水素、炭素、窒素、酸素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、硫黄、カルシウム、鉄、…といった様々な元素に由来するものである。
鮫島さんたちの研究チームは、観測から得られたA型星の赤外線波長域における高分散スペクトルを詳細に研究し、波長0.9μmから1.35μmにおけるA型星の吸収線の詳細な「ラインカタログ」を作成した。従来に比べて10倍以上も高精度なカタログであり、赤外線波長域における地球大気吸収線の除去過程をより精密にするものだ。
さらにこのカタログは、A型星自体の元素組成比をより精密に決定する研究にも寄与する。恒星を研究する際に、近赤外線の波長域にどのような吸収線が見られるのかということを詳細に列挙した、いわば辞書のような役割を果たすものとなる。
鮫島さんたちは今後もWINEREDを活用し、様々なスペクトル型の恒星について近赤外線波長域におけるラインカタログの公開を進めていく予定だ。その成果は恒星天文学の研究に大きな前進をもたらすと期待される。
〈参照〉
- 京都産業大学:京都産業大学・神山天文台・近赤外線高分散ラボ(LiH)が近赤外線波長域での詳細なA型星ライン・カタログを世界で初めて公開
- The Astrophysical Journal Supplement:WINERED High-resolution Near-infrared Line Catalog: A-type Star 論文
〈関連リンク〉
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