星間物質の温度と密度の精密測定に成功
【2019年8月28日 京都産業大学】
天の川銀河のような銀河の円盤部分は、大量のガス状の星間物質で満たされており、この星間物質を材料として星が形成される。銀河スケールでの物質循環を理解する上で、星間物質は重要な研究対象だ。星間物質に含まれる物質のなかでも、とくに炭素を中心に構成される星間分子は、惑星や生命の元になる可能性が高いと考えられており、精力的に研究が進められている。
星間分子のうちC2分子(炭素2個の分子)とCN分子(炭素と窒素の分子)は、星間物質中における分子の反応過程において重要な役割を果たしている。さらに、その分子特性を利用すると星間物質の温度や密度を高精度に推定できるので、これら2種類の分子を様々な天体について観測することは重要な研究課題である。
しかし、これらの分子について可視光線波長域でスペクトル観測を行うと星間塵による減光(星間減光)を強く受けてしまうことから、従来は観測できる領域が限られていた。
国立天文台の濱野哲史さん(研究時は京都産業大学神山天文台)たちの研究グループは、京都産業大学神山天文台の研究プロジェクト「赤外線高分散ラボ」で開発した近赤外線高分散分光器「WINERED」を用いて、約4900光年彼方に広がる大規模な星形成領域「はくちょう座OB2星団」を観測した。はくちょう座OB2星団は星間減光が大きい領域であり、とくに今回観測対象とされたNo.12という恒星はV等級で10等級以上も暗くなってしまうという非常に強い減光を受けている。
高い感度と波長分解能を誇るWINEREDでスペクトルを取得し、可視光線吸収バンドよりも相対的に透過率の高い赤外線のC2の吸収バンドを解析することにより、研究グループは可視光線観測に基づいた先行研究よりも約3倍高い精度で星間ガス雲の温度・密度を推定することに成功した。こうした領域で近赤外線吸収バンドが検出されたのは初めてのことだ。
さらに、従来の赤外線分光器では得られなかった高精度スペクトルを取得できたことにより、C2分子の同位体分子種「12C13C」による近赤外吸収バンドの検出にも成功した。これも世界初の成果であり、12C2の解析結果と合わせることで、C2に含まれる炭素原子の同位体比の測定も可能になった。
分子中の元素同位体比は、その分子の生成・破壊に関わる化学反応に敏感なパラメータであり、星間物質中における複雑な化学反応プロセスを調べる手がかりとなるものだ。今後、より多くの天体でC2の炭素同位体比が測定され、他の分子の元素同位体比と比較することで、星間物質中の化学反応過程に新たな知見がもたらされると期待される。
〈参照〉
- 京都産業大学:星間分子の近赤外吸収バンドを用いた星間物質の温度・密度の精密測定手法の確立
- The Astrophysical Journal:First detection of A-X (0,0) bands of interstellar C2 and CN 論文
〈関連リンク〉
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