アルコールを噴出し謎の熱源を持つウィルタネン彗星
【2021年7月6日 ケック天文台】
2018年12月、ウィルタネン彗星(46P/Wirtanen)が地球から1160万km(月までの距離の約30倍)の距離まで接近した。これは1948年に同彗星が発見されて以来、最も地球へ近づく機会だった。米・アメリカン大学のBoncho Bonevさんたちの研究チームはこのウィルタネン彗星をハワイ・マウナケア山のケック天文台で観測し、不思議な性質をとらえた。ケック天文台ではちょうどこのタイミングで、赤外線分光器「NIRSPEC」がアップグレードを完了していた。
見つかった特徴の一つは、噴出物中のアルコールの割合が大きいことだ。「ウィルタネン彗星はこれまでに観測された彗星の中で、アルデヒドに対するアルコールの比率が最も高い部類です。この事実は、太陽系誕生から間もないころ、ウィルタネン彗星が形成された場所で炭素、酸素、水素といった分子がどのように分布していたのかに関する情報となります」(米・ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所 Neil Dello Russoさん)。
もう一つの特徴は、彗星の核が加熱されて蒸発していくプロセスの中で、太陽光以外に何らかの熱源が働いているように見える点だ。蒸発したガスは彗星を取り巻く衣のようなコマを形成し、太陽に大きく近づいたときにはこれが押し流されて尾となる。「興味深いことに、コマに含まれる水蒸気の温度を測定すると、核からの距離に応じてそれほど低下しないことがわかったのです。これは、何らかの加熱メカニズムを示唆します」(米・ミズーリ大学セントルイス校 Erika Gibbさん)。
Gibbさんによれば、コマの中の原子や分子がイオン化して電子を放出し、この電子が他の分子に衝突することでエネルギーを伝えるという可能性が考えられるという。「あるいは、ウィルタネン彗星から氷の塊がはがれ落ちているという可能性もあります。これは探査機が訪れたいくつかの彗星でも見られました。とくに、NASAのEPOXIミッション(彗星探査機ディープインパクトの延長ミッション)が訪れたハートレー彗星(103P)では、それが顕著でした。氷の塊が核から崩れ出して昇華し、コマ内でさらにエネルギーを放出するのです」(Gibbさん)。
太陽を周回する彗星は、太陽系形成初期に存在した物質を含む言わば「氷の化石」であり、その組成の分析は初期の太陽系を理解するために重要なことだ。彗星研究者は考古学者のように、彗星を使って太陽系の歴史をつなぎ合わせている。研究チームでは引き続きデータの分析を続けており、研究で得られた情報は、ウィルタネン彗星を探査するミッションを将来実施するかどうかの判断に役立てられる。
〈参照〉
- W. M. Keck Observatory:Abnormally High Alcohol And Mystery Heat Source Detected On Comet Wirtanen
- The Planetary Science Journal:First Comet Observations with NIRSPEC-2 at Keck: Outgassing Sources of Parent Volatiles and Abundances Based on Alternative Taxonomic Compositional Baselines in 46P/Wirtanen 論文
〈関連リンク〉
- W. M. Keck Observatory
- アストロアーツ:
- 天体写真ギャラリー:ウィルタネン彗星(46P)(2018~2019年)
- 星空ガイド:ウィルタネン彗星 2018年11月/2018年12月/2019年1月
関連記事
- 2020/12/22 宇宙空間でイオンが電子より高温になる理由を解明
- 2018/12/27 電波やレーダーで観測されたウィルタネン彗星
- 2018/12/25 2019年1月 ウィルタネン彗星が6等前後
- 2018/11/26 2018年12月 ウィルタネン彗星が4等台
- 2018/11/21 2018年11月 ウィルタネン彗星が6等前後