磁場による電子の超加速を地上実験で再現
【2023年1月20日 大阪大学】
超新星残骸のかに星雲では、最先端の科学技術でも人類が再現できないほどの超高速(高エネルギー)まで電子が加速されていることが、宇宙線の観測からわかっている(参照:「かに星雲から観測史上最高エネルギーのガンマ線を検出」)。これほどまでの加速を実現する仕組みについては様々な理論やモデルがあるが、まだ原因は特定されていない。
米・プリンストン大学プラズマ物理研究所のAbraham Chienさんたちの研究チームは、磁力線がつなぎ替わる(リコネクションする)「磁気リコネクション」と呼ばれる現象に着目した実験を行った。つなぎ替わった磁力線はゴムのように周囲のプラズマを弾くことでエネルギーを与えることができるが、それによって電子がどこまで加速できるかは未解明だった。
2013年に、レーザーを磁場発生装置に当てることでごく短時間ながら強力な磁場を発生させる方法が発表されている。研究チームはこれを磁気リコネクション用に改良して、電子が高エネルギーまで加速される現象を再現することに成功した。これにより、かに星雲のガンマ線フレアを引き起こす電子の加速が、確かに磁気リコネクションによって起こっている可能性が示唆された。
また、磁気リコネクション中のプラズマの温度と密度の同時計測結果と、コンピューターシミュレーションとの比較から、磁気リコネクションによる加速機構の中でも、直接電場加速(Direct electric field acceleration)が最有力であることが示された。
今回のように、地球から6400光年も離れたかに星雲で起こっているような電子の加速機構を地上のレーザー装置で再現して詳細に調べることは、人類が到達できないほどの高エネルギーの電子に潜む物理の解明に役立つ強力な武器となる。今後同様の研究によって宇宙における電子の加速機構の理解が進み、さらには革新的な粒子加速器の発明に繋がることも期待される。
〈参照〉
- 大阪大学:宇宙における電子加速の理論・モデルをレーザー実験で初検証 - かに星雲のガンマ線フレアの原因解明へ前進
- Nature Physics:Non-thermal electron acceleration from magnetically driven reconnection in a laboratory plasma 論文
- 2013年に研究発表された強磁場発生法:
- 大阪外学:大エネルギーレーザーを使ったキロ・テスラの強磁場の生成に成功 - 夢のエネルギー源の実現と新しい天文学の発展へ貢献
- Nature Scientific Reports:Kilotesla Magnetic Field due to a Capacitor-Coil Target Driven by High Power Laser 論文
〈関連リンク〉
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