H3打ち上げ中止の原因は主エンジン制御部の電力ダウン
JAXAの新型ロケット「H3」の試験機1号機打ち上げが主エンジン着火後に自動中止となった事象(参考:「日本の新型ロケット「H3」、メインエンジン点火後に打ち上げ中止」)について、22日に文部科学省で開かれた「宇宙開発利用に係る調査・安全有識者会合」で、詳しい状況が明らかにされた。
JAXAによると、ロケット打ち上げのカウントダウンシーケンスは打ち上げ6.3秒前までは正常に進み、2基の主エンジン「LE-9」に着火した。LE-9の推力は規定値の約90%まで発生し、各機器が正常であると自動判定されて「打ち上げ条件成立(フライトロックイン)」という状態に入った。
その後、予定では打ち上げ0.4秒前に、第1段の各部を制御している「1段機体制御コントローラ(V-CON1)」が固体ロケットブースター「SRB-3」に点火信号を送って点火し、ロケットはリフトオフ(離昇)するはずだった。
ところが、このSRB-3点火の直前にV-CON1が何らかの異常を検知したため、V-CON1に組み込まれている飛行制御ソフトウェアが以降のシーケンスを停止し、SRB-3には点火せずにLE-9エンジンも自動停止されてロケット全体が安全な状態に移行した。これが17日の打ち上げ中止事象の時系列だ。
その後のJAXAの調査で、V-CON1が検知した「異常」は、打ち上げ6.3秒前にLE-9に着火した直後、LE-9を制御する「エンジンコントロールユニット(ECU)」と第1段エンジン用電池の間にある半導体スイッチが数秒間にわたって「開(オフ)」になったために、ECUに供給する電圧がゼロになった現象だったことが判明した。電池からの給電が断たれたためにECUの電源は予備系統の電池に切り替わり、シーケンスの停止処理によってLE-9は停止した。
電池とECUをつなぐ半導体スイッチは複数あり、カウントダウンシーケンスが進むとともに順次「閉(オン)」の状態になり、LE-9の着火以降ずっと「閉」のままであるべきものだという。JAXAではスイッチが「開」になった原因を現在詳しく調べているが、V-CON1などの1段制御機器類は主エンジンの近くに配置されていることから、燃焼中の主エンジンや、リフトオフ直前まで機体とつながっている地上設備の電気系統などが半導体スイッチの動作に何らかの影響を与えた可能性があるとしている。
現在、H3ロケット1号機、および搭載されている人工衛星「だいち3号(ALOS-3)」、地上設備は全て健全な状態で、損傷はない。ロケットは燃料を抜いて組立棟(VAB)に戻されており、VAB内のロケット実機、三菱重工業、ECUの開発メーカーの3か所でそれぞれ原因調査と対策、検証の作業が行われている。並行して、再打ち上げの準備作業も進められている。
H3試験機1号機の打ち上げ予備期間は3月10日まで設けられている。JAXAではこの期間内に打ち上げが行えるよう、原因究明に全力を挙げるとしている。
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