32億画素のカメラで撮影、ベラ・ルービン天文台が初画像公開
【2025年6月25日 ベラ・ルービン天文台/国立天文台】
南米チリのセロ・パチョン山頂に建設されたベラ・ルービン天文台は、超広視野分光という新たな力を備えた、撮像探査に特化した次世代型天文観測施設だ。口径8.4mの光学赤外線望遠鏡と、史上最大の32億画素のカメラとを組み合わせて、満月45個分の広さに相当する広大な範囲を一度に観測できる。これは口径8mクラスの望遠鏡としては最大の視野である。
いて座の三裂星雲(M20)と干潟星雲(M8)。7時間強の観測で撮影された678枚の画像を合成(提供:Rubin Observatory)
天文台の名前は、米国の天文学者ベラ・ルービン(Vera C. Rubin)に由来するものだ。また、望遠鏡には、初期に多額の寄付をしたハンガリーのチャールズ・シモニー(Charles Simonyi)氏に因んで「シモニー・サーベイ望遠鏡」という名称が付けられている。
主さ2.8t、大きさが小型の車ほどのLSSTカメラを搭載したベラ・ルービン天文台のシモニー・サーベイ望遠鏡(提供:RubinObs/NSF/DOE/NOIRLab/SLAC/AURA/Hernan Stockebrand)
ベラ・ルービン天文台は今年後半から大規模撮像探査プロジェクト「Legacy Survey of Space and Time(LSST)」を開始し、10年間にわたって、可視光線から近赤外線の波長域で約2万平方度におよぶ南半球の空全体を繰り返し撮像してデータを取得する。ひと晩あたりで20テラバイト(=2万ギガバイト)ものデータと15ペタバイト(=1500万ギガバイト)ものカタログデータベースが得られ、プロジェクトの初年度だけで、現在稼働中の他の全光学天文台が収集するデータ量の合計を上回る。最終的なデータセットには、数十億個の天体が含まれることになるはずだ。
こうした膨大なデータから、太陽系内の小天体、変光星、超新星、銀河、恒星間天体、ダークマター、これまでに観測されたことのない現象に至る幅広い分野における新たな発見が期待される。また、サーベイで取得された画像は専用サイト「SkyViewer」上で一般に公開され、閲覧して楽しむこともできる。
1100枚以上の銀河の画像から作成された動画「The Cosmic Treasure Chest」。2つの銀河のクローズアップで始まり、ズームアウトして約1000万個の銀河が映し出される。約1000万個という数は、ベラ・ルービン天文台が今後10年間に観測する約200億個の0.05%にあたる(提供:Rubin Observatory、以下同)
太陽系の小惑星をとらえた画像から作成された動画「A Swarm of New Asterodis」。ベラ・ルービン天文台は10時間の試験観測で2104個の新小惑星を発見したが、これは現在世界中で1年間に発見される小惑星の約1割にあたる。ベラ・ルービン天文台は、最初の2年間に数百万個の小惑星を発見すると見込まれ、太陽系を通過する恒星間天体の発見にも威力を発揮することが期待される
「初画像の公開は、グローバルなチームによる約20年にわたる献身や協力の集大成です。建設が完了した今、私たちはただ画像を撮影するだけでなく、まったく新しい発見の時代を開始するために空に目を向けていきます」(ベラ・ルービン天文台建設部門長 Željko Ivezićさん)。
国際的なプロジェクトであるベラ・ルービン天文台には、とくにすばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム、HSC)による広視野撮像探査の経験と実績等が評価され、日本の研究者たちもLSSTの貢献メンバーとして参加している。「私は15年以上前にHSCの開発に参加し、現在はLSSTの一員として携わって8年になります。20年以上にわたる技術的進展と、すばる望遠鏡およびアメリカを中心としたコミュニティによる国際的な協力の積み重ねが、この新たな人類の『目』を生み出したことに、深い敬意と誇りを感じています。今後、LSSTがもたらす新たな発見と科学の扉の広がりを楽しみにしています」(国立天文台 内海洋輔さん)。
〈参照〉
- Vera C. Rubin Observatory:Ever-changing Universe Revealed in First Imagery From NSF-DOE Vera C. Rubin Observatory
- 国立天文台:ベラ・C・ルービン天文台の始動に国立天文台の研究者も協力