風変わりなカメレオン超新星
【2017年1月27日 NASA JPL/NuSTAR/Caltech】
「わたしたちの身体は、星屑でできている」とは、かの有名な天文学者カール・セーガンの言葉だ。恒星内での核融合反応によって作られた物質は、重い星の一生の最期に起こる大爆発である超新星爆発などによって宇宙空間へと放出され、わたしたちの身体や惑星の材料となる。
ある超新星がどのようにして物質を宇宙空間へと運んだのか、研究者はモデル作りの困難に直面している。その超新星とは、2014年にペガスス座の方向3600万~4600万光年彼方の渦巻銀河NGC 7331に出現した「SN 2014C」だ。SN 2014Cは爆発後の1年間に劇的な変化を見せたが、その理由はどうやら爆発前の星が一生の後半に多くの物質を放出していたためとみられている。
超新星は水素の有無によって、I型(水素がほとんど見られない)とII型(水素が含まれる)に大きく分けられる。様々な観測により、SN 2014CはI型からII型へと変化したと研究者は結論付けている。爆発して間もないころは水素が検出されないI型だったのだが、約1年後には、外側に広がる水素が豊富なシェル(球殻)状構造に爆発の衝撃波が衝突し、水素が検出されたのだ。
NASAのX線観測衛星NuSTARなどによる追加観測から爆発の膨張速度やシェルの物質の量を見積もったところ、SN 2014Cは爆発の数十年から数百年前に、太陽1個分ほどの質量の物質をすでに放出していたと考えられる。そのふるまいは、星の爆発に関して現在わかっているどのカテゴリーにも入らない。説明には、大質量星が爆発前にどうなっているのかについてのアイディアの修正が必要になる。
なぜ爆発前に大量の水素を放出したのだろうか。大質量星の中心核で起こる核融合に関する理解に、何かが欠けているのかもしれない。あるいは、星が単独で最期を迎えなかったという可能性が考えられている。伴星の影響で、爆発前のSN 2014Cが普通の星とは異なる最期を迎えたのかもしれない。
「この『カメレオン超新星』は、大質量星で作られた物質を宇宙へ放出する新たなメカニズムを代表する存在なのかもしれません」(米・ノースウエスタン大学 Raffaella Marguttiさん)。
〈参照〉
- NASA JPL: NuSTAR Finds New Clues to 'Chameleon Supernova'
- The Astrophysical Journal: Ejection of the Massive Hydrogen-rich Envelope Time with the Collapse of the Stripped SN 2014C 論文
〈関連リンク〉
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