第35回 メガスターがもたらす変革
(星ナビ2007年12月号に掲載)
唯一であるということ
今さらながら振り返ると、メガスターを世に初めて問うたのは、国際プラネタリウム協会ロンドン大会、1998年のことだった。発表前日、オープニングセレモニーにて、他の参加者に発表する新型プラネタリウムの星数を聞かれ、「1million(100万個)」と答えたら、「Pardon?(は?)」と聞かれたことを思い出す。当時、数字だけを聞けば、そんな桁外れな星を投影してどうするのか?あるいは、オルバースのパラドックスさながら、無数の星で空が真っ白になってしまうのではないか? と、誰もが疑問に思っただろう。口頭ではうまく伝えられなかったが、ドームの実演によって、参加者たちは、一様にその真価を理解してくれたと認識している。
その後、2000年に表参道のスパイラルで初公開以降、数々の公開を通じてメガスターとそのコンセプトは世に受け入れられていったのだが、メガスタータイプ、すなわち100万個以上の恒星を投影する、天の川を星の集団で再現するプラネタリウムはその後、ずいぶん長いこと、大平貴之だけのものであり続けた(例外としてソニー製スタープロジェクタがあるが、これもメガスター起源である)。
比肩するライバルが存在しないことは、オンリーワンとしての優位性を僕にもたらしてくれたが、同時に「優れたアイディアには模倣品が必ず現れる」という世の法則に照らし合わせると、一抹の寂しさを感じなくもなかった。
これまでメガスターをめぐり、数え切れないほどのメディアの取材を受けてきたが、最も多く答えに窮する質問のひとつが「なぜ大平さん以外にメガスターのようなものを造る人(会社)がいないのか?」というものだった。メガスターの恒星原板には在来よりも高度な技術が求められるが、企業が本気になって超えられない壁とは思えない(特許の問題もあろうが、これはまたデリケートな話なので深入りしない)。あるいは僕の深読みに過ぎないのかもしれないが、その質問の裏には往々にして「実は他者が真似しようと思うほど価値がないのではないか?」という疑念を感じることもあったのだ。
メガスターのコンセプトがトレンドに?
しかし今、そんな状況が少しずつ変化しつつある。最近のプラネタリウム界のトレンドは第一にデジタル化だが、デジタルで再現できない星空の質感、リアリティを求めて、他社製品に恒星数を大幅に増やす傾向が相次いでいる。コンセプトの差はあるが、天の川を星の集団で再現するというアプローチは、光学式プラネタリウムのトレンドになりつつある。これは何を意味するだろうか? 大平メガスターにとってどのような影響をもたらすだろうか? 僕は最近それを感慨とともに考えるのだ。