メガスターデイズ 〜大平貴之の天空工房〜

第36回 プラネタリウムとメガスターの向かう先

星ナビ2008年1月号に掲載)

今回は先月に引き続き、光学式プラネタリウムの現在とこれから、そしてメガスターがどう変わっていくべきかを考えます。

挑戦だったメガスター

メガスター誕生間もない2000年頃、自分のホームページに、「メガスターは歴史に残れるか?」と題したやや挑戦的なコラムを書いたことがある。まだメガスターは一般公開されたことがなく、その星空を見たことがあるのも、プラネタリウム業界の一部の人だけ、という時代だった。当時、光学式プラネタリウムを製作可能なのは大手の専業メーカーのみというプラネタリウム界で、大平という一個人の手により生み出され、在来より一気に2ケタ上回る100万個という文字通り、ケタ外れの恒星数を誇るメガスターの出現は、どのようなインパクトだったろうか?

最初に感じたのは、ケタ外れの星数と、簡単に持ち運びできるという在来機にはない特長を備えたメガスターは、斜陽化といわれがちであったプラネタリウム界の現状を打破してくれるかもしれないという期待である。しかし懐疑的な見方も多かった。肉眼で見えない星をなぜ映すのか?膨大な星を投影する機器をプラネタリウムと呼べるのか?と大真面目に書いた天文誌編集者もいたほどである。

天文・プラネタリウム界からの期待と困惑の視線の中で、メガスターは開発者の僕自身と共にマスメディアに数多く取り上げられるようになったが、その後ずいぶん長い間、メガスタータイプのプラネタリウムは、大平貴之だけのものであり続けた。そのことは、競争相手のない地位をもたらす半面、個人で作った話題性があってこそ意味があるもので、微光星までの再現や100万個レベルの星数というコンセプトは、他社が手がけるには値しないものなのでは?という懐疑的な視線を感じることもあった。

最近、首都圏の2つのプラネタリウムが話題を呼んだ。ひとつは、天の川エリアに限ってはいるが、40万個の星を再現している。もうひとつの館に至っては、メガスターIIをも凌ぐ、1000万個の恒星を目玉にしている。いずれも天の川を星の集団で再現し、リアルさを追求するというメガスターのコンセプトに倣ったものとなっている。メガスター的な方法論が、個人制作という話題性を持たぬ他社にとっても有意なものとなり、少しずつプラネタリウムの大きな潮流になってきたのである。そして日本発のトレンドとして、海外にも波及していくだろうか。7年前の僕の問いかけには、いつの間にか、答えが出ているのである。

革命的な存在であり続けたい

しかし、メガスターのコンセプトがトレンドになりつつあるという状況に、単純に胸を張っているだけでは許されなくなったのも事実である。何故なら、僕はもうアマチュア開発者ではない。プラネタリウムを生業とする有限会社大平技研の代表である。強力なライバルの出現に対し、勝ち残っていかなければならない現実もある。もちろん、単なる同じ土俵での勝負にはならないだろうけれど。

これからプラネタリウムはどういう方向に向かうだろうか?デジタル化がますます加速してゆき、プラネタリウムという言葉の概念すらも変えてしまうかもしれない。しかしメガスターが導いた光学式プラネタリウムの流れもまた、デジタルでは描ききれない質感と描写能力に磨きをかけ、まだまだ発展してゆくだろう。そして切磋琢磨の中で、さらにすばらしい星空が生まれることは間違いない。

しかし、技術革新の中で、そもそもプラネタリウムは何のためにあるのか?なぜリアルさを追求するのか。この根源的な問いに、プラネタリウムの作り手は、どれだけの答えを持って臨んでいるだろうか? 僕もまたその問いに新たな答えを迫られている。そして新たな試みはすでに始まっている。メガスターがそうであったように、これからも新たな革命を起こす存在でありたいと思うのだ。