メガスターデイズ 〜大平貴之の天空工房〜

第47回 不思議な立場

星ナビ2008年12月号に掲載)

芸能プロダクションに所属していながらエンジニアであるという私の立場で感じていることをお話しします。

芸能プロダクションと契約して1年

ホリプロとのマネジメント契約をして1年経った。かつての山口百恵など、アイドルやタレントを数多く抱える巨大プロダクションというイメージが強いが、音楽アーティストや文化人、アナウンサーなども所属している。テレビ取材や広告出演等、マスコミ露出の諸々を交渉をしてくれるので、確かにその点では楽になった。未だかつてない、天文人・エンジニアと芸能プロダクションという異質のコラボレーションは今のところ順調のようである。

話は変わるが、先日パシフィコ横浜で開催されたポジショニングEXPO2008(位置決め技術の総合展)という展示会を訪れた。半導体製造装置等に使われる精密な部品に特化した展示会なので、過日開催されたCEATEC(最先端IT・エレクトロニクス総合展)などとは違って、一般の人の関心を引く内容ではない。だからはるかに地味で、スペースも狭かった。しかし僕にとっては違った。閉幕1時間前に会場に着いた僕は「しまった」と思ったのだ。興味あふれる展示ブースの数々を前に、もっと早く来れば良かった…と後悔したからだ。

1ナノメートル以下の精度で精密駆動されるステージや、指先より小さなアクチュエータ(駆動機構)を見ていると、エンジニア魂が激しく刺激される。見ているだけで血が騒ぐ。目の前にある最新のデバイスや素材をもってすれば、さらに新しい可能性を切り拓ける。そんなことを考える自分は、やっぱりエンジニアなのだと再認識したのだった。

テレビなどの力による知名度の向上は、本業の技術開発にも思わぬ恩恵をもたらした。企業の協力を得やすくなったのだ。メガスター次世代機の開発は次第に個人の延長では立ちゆかない規模になりつつあるが、こうしたとき、外部からの協力がモノをいう。とても有り難いことだ。

知名度の上昇を感じる出来事は、ひょんなところにある。これら展示会の会場で「あのメガスターの大平さんですか?」と声をかけられるようになったのだ。コンパニオンの女性からファンだと言われていい気がしないはずがない。それだけでなく企業ブースでも丁重な対応を頂いたり、そんな「御利益」にあずかることが増えてきた。

会場でまとめ買いした技術書。その中で解説されているシングルモード光ファイバは、毎秒1テラビット以上の大容量データを伝える。エンジニアが取り組むのはこのファイバの素材であり、特性であり、難解な数式である。しかしそのファイバが伝えるコンテンツは、雑多なもの。音楽であり、映画であり、娯楽などのエンターテインメントである。その内容にエンジニアが関与することは本来はない。社会は分業されているのだ。しかし僕は、この中を通るコンテンツと、ファイバそのものの両方に関わる不思議な立場にいる。芸能プロダクションに所属する天文人・エンジニアだからこそできることとは何か? 一見相容れない両極端の世界を何とかつないでみることが、(堅苦しく感じるので好きな言葉ではないのだが)天文普及、サイエンスコミュニケーションということにつながるのではないかとも思う。

さてそんなことを考えているうちに、久々にバラエティ番組出演の依頼が舞い込んだ。収録はこれからだが、天文や科学技術にまったく興味を持たない人も見るであろう番組で、どれだけおもしろく星の世界やモノ作りをアピールできるか、チャレンジしてきたいと思っている。

技術書のラインナップ

ポジショニングEXPO2008の会場でまとめ買いした技術書のラインナップ。