「ニューホライズンズ」、新世界に向けて飛び立つ
【2006年1月25日 NASA KENNEDY NEWS】
太陽系で唯一、まだ一度も探査機が訪れていない惑星、冥王星へ向けて、無人探査機「ニューホライズンズ」が日本時間20日午前4時(米東部時間の19日午後2時)、フロリダ州のケープカナベラル空軍基地からアトラス5ロケットで打ち上げられた。打ち上げから5分後には、ニューホライズンズから電波が地上に届き、10年以上に及ぶ長い航海の船出は順調であることが確認された。
ボイジャーやパイオニアをはじめとした探査機によって、人類は海王星までの惑星を間近で見てきたが、数十年もの間、冥王星だけが残されていた。NASAの科学ミッション局のハートマン博士は語る。「私たちが冥王星について知っていることは、それこそ切手の裏にでも書ける程度です。ニューホライズンズがもたらす情報は、何冊もの教科書になるでしょう」
これまででもっとも遠い天体を目指す探査機は、これまででもっとも速い速度で地球を離れる。冥王星までの50億キロメートルほどの旅路を、平均時速約58,000キロメートルで駆け抜けるのだ。総重量も480キログラム程度で、探査機としては比較的軽量だ。
ニューホライズンズが最初に目指すのは木星で、ここでスイングバイを行うとともに試験探査も行う予定だ。木星に接近するのは13ヶ月後の2007年2月で、探査機としての最短記録となる。木星接近後の8年間は、主な電気系統のスイッチは落とされ、いわば探査機は長い眠りにつく。もちろんその間、年に1回重要なシステムのチェックや必要があれば軌道修正、冥王星接近リハーサルを行いながら旅を続ける。2015年夏に冥王星に到達し、6ヶ月にわたり、冥王星とその衛星カロンについて探査を行う。
ニューホライズンズの旅の終着点は、冥王星ではない。冥王星は単独の惑星と言うよりも「エッジワース・カイパーベルト天体」の中の1つに過ぎない。2016年以降、ニューホライズンズは冥王星とカロン以外のエッジワース・カイパーベルト天体の探査に挑戦する予定だ。最近になってようやく研究が始まった、海王星の向こうに広がる微惑星の集まり「エッジワース・カイパーベルト」は、まさに「ニューホライズンズ(New Horizons:新たなる地平線)」の名にふさわしい。人類未踏の地へ向けて、まさに新たな地平を拓くための長旅は、まだ始まったばかりだ。
なお、ピアノほどの大きさのニューホライズンズ探査機には7つの機器が搭載されており、冥王星やその衛星カロンについて、表面の特徴や、地形、内部構造や大気に関する探査が行われる。
Ralph(ラルフ):可視光と赤外線の撮像および分光装置。惑星表面の組成や温度の分布を測定する。
Alice(アリス):紫外線分光装置。冥王星の大気の組成を観測するとともに、カロンや他のエッジワース・カイパーベルト天体における大気の有無を調べる。
REX(Radio Science EXperiment(レックス)):大気の組成や温度を、電波観測により調べる。
LORRI(Long Range Reconnaissance Imager(ローリー)):望遠撮像装置。解像度は最接近時で100メートルにもなる予定である。遠距離からの観測も行う。
SWAP(Solar Wind Analyzer around Pluto (スワップ)):太陽風およびプラズマ観測センサー。冥王星から宇宙空間へ放出される大気の測定を通じて、太陽風と冥王星の相互作用を調べる。
PEPSSI(Pluto Energetic Particle Spectrometer Science Investigation(ペプシ)):エネルギー粒子分光計。冥王星大気から脱出するイオンやプラズマの組成と密度を測定する。
SDC(Student Dust Counter (SDC)):コロラド大学の学生チームが作り上げ、運用も行う観測機器。「太陽系横断の旅」の最中にニューホライズンズに衝突する微粒子を測定する。
冥王星は太陽系の第9惑星です。太陽系惑星の中で最も小さく、地球の月の3分の2の大きさしかありません。また、公転軌道が扁平な楕円であり、殆ど円に近い他の惑星と異るなど、「冥王星は惑星ではない」ともいわれています。冥王星に似た軌道の天体が多数発見されており、それらはエッジワース・カイパーベルト天体と呼ばれます。(「最新デジタル宇宙大百科」より)