【特集・太陽系再編】(4)守られるか、冥王星の地位(前編)

【2006年8月23日 アストロアーツ】

やはり、すべての発端は「第9惑星」冥王星、そして冥王星を含むエッジワース・カイパーベルト天体にあると言えるでしょう。冥王星を惑星とすることの是非はさておき、確かなのは、今回の提案はこの十数年の間に急速に進歩した、私たちの太陽系に関する認識を反映しているということです。


冥王星と「第10惑星」だけではない!

(主なEKBOの大きさ比較)

2005年に発表された、冥王星よりも大きな天体「2003 UB313」。その存在は、惑星に関する議論の「きっかけ」の1つとなったことは確かです。しかし、議論の本質的な「理由」だと考えるべきではありません。冥王星の周囲には「エッジワース・カイパーベルト」と呼ばれる領域があり、そこには氷でできた無数の天体が潜んでいることが、ごく最近になってわかってきました。冥王星も2003 UB313も、氷山の一角に過ぎません。

まずは、急激に展開する「エッジワース・カイパーベルト」の研究と発見の歴史を追ってみましょう。

1930年、冥王星が発見されました。のちに、この天体が予想以上に小さく、海王星の内側に入り込むほどいびつな軌道を回っていることが判明しましたが、「惑星」としての資格をはく奪されることはありませんでした。その時点で冥王星が「太陽系の果て」であることは間違いなかったからです。

1950年前後に2人の天文学者、アイルランドのケネス・エッジワースとアメリカのジェラルド・カイパーが、それぞれ独立に「冥王星付近あるいは外側に、氷でできた小天体がたくさん存在する」というアイデアを発表しました。太陽に近づいて尾をたなびかせる彗星は、こうした場所に「ふるさと」があると考えたのです。この領域は「エッジワース・カイパーベルト」と呼ばれることになります。しかし、そこにある天体(エッジワース・カイパーベルト天体、略してEKBO)を観測するのは困難だと思われていました。誰もが知っている冥王星が、のちにエッジワース・カイパーベルト天体の代表になるとも知らずに…。

ついに冥王星(そして1978年に発見された冥王星の衛星カロン)以外のEKBOが発見されたのは、1992年のことです。「1992 QB1」という仮符号を与えられた天体は直径が約200キロメートルで、軌道は完全に海王星の外側を通っていました。1992 QB1の発見によってEKBOの捜索活動も本格化し、1993年に5個、1994年11個、1995年16個、…と発見数が増えていきます。2006年7月21日現在、その数は冥王星とカロンを除いて1118個です(The Kuiper Belt Electronic Newsletterによる)。

1999年にEKBOが累計100個に到達したころには、多くの天文学者が「冥王星もEKBOの1つに過ぎないのでは」と考えるようになりました。このとき冥王星が惑星に踏みとどまれたのは、他のEKBO(直径500キロメートル未満)に比べればはるかに大きかった(直径2306キロメートル)からです。しかし、その事実もすぐに覆されてしまいました。

2000年に発見されたヴァルナ(Varuna)、2001年に発見されたイクシオン(Ixion)は、直径が推定1000キロメートル以上とセレス(952キロメートル)より大きいことから注目を浴びました。現在、ヴァルナは直径600キロメートル前後、イクシオンは500キロメートル前後と下方修正されていますが、自分の重力で丸くなっている可能性は高いとされています。

2002年に発見されたクワーオアー(Quaoar)、2004年に発見されたオルクス(Orcus)はどちらも直径1000キロメートル以上でセレスを上回っている可能性が高いEKBOです。そして2004年、ついに「第10惑星」という修飾語つきで報道される天体が現れました。セドナ(Sedna)と名付けられたこの天体は、太陽にもっとも近いときで冥王星の2倍、もっとも遠いときで20倍以上という不思議な軌道を通っていました。エッジワース・カイパーベルトよりも遠くからきた天体であるとの指摘もあります。また、直径は推定1800キロメートルにもなり、いよいよ冥王星の地位が危うくなってきました。

こうして太陽系外縁部における発見の歴史をつづると、2005年7月に2003 UB313が冥王星よりも大きいことが判明したのも、突発的な事件ではなく、流れの中における必然だと感じられます。さらに加えれば、時を同じくして直径推定1500キロメートル前後の2005 FY9、あまりにも速い自転で推定2000×1000×1200キロメートルのラグビーボール形になってしまった2003 EL61という2つの巨大EKBOの存在が発表されています。

本当に科学的な「惑星の定義」は、冥王星1つではなく、一群の巨大EKBOの処遇をまとめて決めるものでなければいけないのです。

後編に続く


※この特集は、IAUが発表した文書を元にした解説です。「惑星の定義」はまだ原案であり、24日に行われる採決の際は変更されている可能性があります。また、新しく提案された用語には正式な日本語訳が存在せず、本文中の日本語訳はアストロアーツニュース編集部が直訳したものである点にご注意ください。

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