「あかり」が星の生と死をとらえた
【2006年8月29日 JAXA プレスリリース2006 / 宇宙科学研究本部 宇宙ニュース】
日本の赤外線天文衛星「あかり」(ASTRO-F)が撮影した新たな画像が公開された。搭載された2つの観測装置が写し出したのは、星の「産声」と「断末魔の叫び」が宇宙に響く様子だ。
「あかり」(ASTRO-F)は、今年2月22日に鹿児島県内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられた、日本初の本格的な赤外線天文衛星だ。全天にわたる観測を行い宇宙の「赤外線地図」の作成をめざしている。5月22日の初観測に続く画像公開で、ミッションが順調に続いていることが示された。
近・中間赤外線カメラ(IRC)がとらえたのは、ケフェウス座の方向、3000光年弱の距離にある散光星雲IC 1396(画像(上))。ここでは太陽の数十倍もの質量を持つ重い星が生まれていて、画像からは中心付近の星によってガスやちりが周辺へと吹き払われてしまったことがわかる。中央が空洞になっている一方、周辺部は物質が掃き寄せられてガスが収縮を始めている。生まれた星の産声が周囲に届き、そこで新たな星が産声をあげるきっかけを作ろうとしているのだ。
輝いて見えるのは、中央の星や新たに誕生した星の光で暖められた、星雲中のちりだ。可視光ではほとんど輝かないため、逆に暗い染みのように見えてしまう。赤外線で撮影してこそ、星の形成が進む現場を浮かび上がらせることができるのだ。IC 1396全体における星の誕生を鮮明にとらえたのは、「あかり」が初めてである。
一方、遠赤外線サーベイヤ(FIS)は500光年の距離にある赤色巨星(解説参照)、うみへび座Uを観測した。赤色巨星から吹き出すガスの中ではちりが作られ、ガスと共に広がっていく。ちりが放射する赤外線をとらえることで、赤色巨星の活動の様子を知ることができるのだ。
「あかり」の特長である高い解像度によって、ちりが0.3光年離れて広がっていることがわかった。断末魔にある赤色巨星が、およそ1万年前に激しくガスを吹き出したことを示唆している。星の終末期を知る上で重要な成果だ。
赤色巨星
赤色巨星とは、主系列星であった星の老年期の姿。赤色巨星の内部では、ヘリウムがたまっている。ヘリウムの中心核が縮小する代わりに、外側にエネルギーが放出され、外側を取り巻く水素の部分で核融合反応が起こり、星が大きく押し広げられる。結果、元のサイズの100倍近い大きさにまで星が膨らんでしまうことで、星の表面には熱が伝わりにくくなり、冷えて赤くなっていく。この状態が赤色巨星というわけだ。(150のQ&Aで解き明かす 宇宙のなぞ研究室(赤色巨星ってどんな星?) より[実際の紙面をご覧になれます])