アルマ望遠鏡が本格稼働 星のベビーブーム史を明かす研究成果も
【2013年3月15日 アルマ望遠鏡】
南米チリで建設が進められてきた大型電波望遠鏡「アルマ」が、13日に開所式を迎えた。その強力な性能を活かした観測がすでに行われており、観測史上もっとも遠い、つまりもっとも昔に星を活発に生み出していた銀河の発見についても発表されている。
日本など東アジアと欧州、北米、そして建設地南米チリの共同による大型電波望遠鏡プロジェクト「アルマ」の開所式が13日に現地で行われ、チリのピニェラ大統領ら参加国閣僚や、国立天文台の林正彦台長など研究機関の代表が「人類の新しい目」の本格稼働を祝った。
アルマは、ミリ波・サブミリ波と呼ばれる電波の一種で観測を行う望遠鏡で、標高5000mのチャナントール高原に展開される直径7mと12mのアンテナ計66台のデータを組み合わせる「干渉計」のしくみで宇宙の姿を詳しく探る。
日本は、望遠鏡で得た天体からの電波をより精度よく測定するための16台のアンテナ群「アタカマ・コンパクトアレイ(ACA)」と、3種類の周波数帯を受信する受信機、ACA相関器の開発と製造を分担している。
アルマプロジェクトは、日欧米それぞれの別個の計画を1990年代に統合したことを発端として、2000年代半ばから開発・建設が進められてきた。2011年9月には建設途中ながら初期科学観測を開始し、すでに成果を挙げている。恒星や惑星の誕生、生まれたばかりの銀河などをこれまでにないほど詳細に観測することができるほか、星々の間に生命の種になるような複雑な分子を探す試みも行われている。
350人以上の来賓が参加した今回の式典の最後には、ピニェラ大統領の合図に合わせて山頂施設にあるアンテナ群が一斉に動き出し、天の川銀河の中心方向に向くというデモンストレーションも行われた。
アルマ望遠鏡は「建設プロジェクト」から「科学観測を行う観測所」へと本格的に移行し、アンテナの設置はあと7台を残すのみとなっている。
アルマ望遠鏡が書き換える、星のベビーブーム史
アルマ望遠鏡を用いた国際研究チームの観測により、宇宙の中でもっとも星が活発に作られていた時代がこれまで考えられていたよりもずっと昔であったことがわかった。
口径10mの南極点望遠鏡で発見されたスターバースト銀河(星が活発に生み出されている銀河)をアルマ望遠鏡で詳しく観測したところ、それらの天体がこれまで考えられていたよりも遠い距離、つまり昔の時代に存在していたことがわかった。
観測が行われたのは100億〜126億光年彼方の26個の銀河で、もっとも遠い2つは、従来見つかっているスターバースト銀河の中でも最遠の記録を塗り替えた。その天体からの電波は、宇宙がまだ10億歳だった頃に放たれたものということになる。
また2つのうち1つの銀河からは、水分子が放つ電波も検出された。水分子が検出された天体としては、これが観測史上最遠の天体となる。
こうした遠方の銀河は、手前にある銀河に含まれるダークマターの重力がレンズのような役割を果たして本来よりも明るく見えている。いくつかのスターバースト銀河は重力レンズによって最大で22倍も明るく見えているが、こうした効果を差し引いても太陽の40兆倍の明るさで輝いており、私たちの天の川銀河の500倍以上のペースで星を生み出していることになる。
これまでにサブミリ波で見つかっている重力レンズ天体はごくわずかだったが、南極点望遠鏡とアルマ望遠鏡のおかげで数十個を見つけることができた(欧州南天天文台のカルロス・デブレックさん)という。
「今回の研究は、世界中の研究者が協力して第一線の観測装置を使うということの素晴らしさを実証しました。そしてアルマ望遠鏡を使ったスターバースト銀河の研究の第一歩でもあります。次の一歩は、今回観測した天体ひとつひとつをより詳細に観測し、その銀河でなぜ、どのようにしてこんなに多くの星が作られているのかを明らかにすることです」(米アリゾナ大学のダニエル・マロンさん)。