近年になく暗い極大をむかえた変光星はくちょう座χ
【2014年7月18日 高橋進さん】
宵の空に高く上るはくちょう座。その長い首のほぼ中間に位置するミラ型変光星「はくちょう座χ(カイ)」が、近年になく暗い極大をむかえている。昨年の極大では3等台まで明るくなったが、今月の極大では7等前後ですでに暗くなりはじめたようだ。
大きな変光を見せるはくちょう座χ
はくちょう座χは、ミラ型変光星の中でも特に変光幅が大きいことで知られます。ミラ型変光星の代表星であるくじら座のミラは、変光星カタログに掲載されている変光幅が2.0〜10.1等、実質的には3〜9等と6等級程度しか変光しません。はくちょう座χはカタログ値が3.3〜14.2等、通常の変光でも4〜14等と10等級も変わり、ミラ型変光星の中でも際立って大きな変光を見せています。
はくちょう座χは肉眼でも観測できる変光星として有名で、極大のころになるとはくちょう座の首がねじれて見える、というのがよく話題になります(画像1枚目)。今年7月の極大ではどれほどの明るさになるのか、変光星ファンは注目してきました。
6月下旬から増光が停滞
ところが、ゆっくりとした増光が6月下旬になって横ばい状態になりました。変光星メーリングリストでは「今回は暗い極大なのか?」(秋田県の高橋あつ子さん)という指摘が出てきましたが、筆者は「これで極大だと歴史的に暗い極大になってしまう。これは一時的な停滞で、この後また明るくなるのではないか」とコメントしました。この星はこれまでも、一時的な停滞から再び増光をはじめるようすが何度も観測されてきたからです。
しかし横ばい状態は続き、7月15日には「これ以上明るくならないなら、ここまで暗い極大は珍しい」(東京大学木曽観測所の前原裕之さん)というコメントが入りました。信じがたい思いで多くの人が梅雨空の合間をぬって観測を続けていたものの、15日を過ぎると如実に光度が下がっていき、極大を過ぎたのが誰の目にも明らかになりました。
ここまでの観測から、今回の極大は7月5日ごろ、極大光度は6.9等くらいかと思われます。過去のデータを現在チェック中ですが、おそらくこれほどの暗い極大は1937年以来、77年ぶりの暗い極大かと言われています。ただ1937年のデータも完全なものとは言えないため、場合によってはさらにさかのぼる可能性もあります。
変光星を知るうえで貴重な観測結果に
ミラ型変光星は、脈動で縮んで温度が高くなることで輻射が強くなると増光し、極大をむかえると言われています。また極小時には、酸化チタンが可視光を吸収して大きく減光されるため、変光幅が大きくなるとも言われています。
今回のまれに見る暗い極大がどのようなメカニズムによるものか、よくわかっていませんが、ミラ型変光星を知るうえでたいへん貴重な観測結果です。脈動変光星というと、ただ「周期的に明るさを変える」というイメージしかないかもしれませんが、こうした思いもよらない変化の中から新たな事実が明らかにされることを期待しています。
変光星は誰にでも比較的気軽に観測できる対象のひとつです。ぜひ多くの皆さんに変光星に興味を持っていただければ幸いです。
ステラナビゲータで変光星を表示
天文シミュレーションソフトウェア「ステラナビゲータ」では、天体をクリックすると表示される「天体情報パレット」で予測光度を表示します。また、「天体」メニュー→「恒星」ダイアログで変光星を表示設定すると、変光星の名前と極大・極小時の明るさが星図に表示されます。