火星で発生する陽子オーロラ

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探査機「メイブン」による観測から、太陽風の陽子が火星大気に衝突することにより、紫外線で輝く陽子オーロラが発生していることが明らかになった。

【2018年7月31日 NASA

オーロラは、高エネルギー粒子が惑星の大気へ入り込み、大気中の粒子と衝突して発生する現象だ。地球のオーロラを含め、一般的にオーロラは電子によって引き起こされるが、まれに陽子によって発生することもある。

NASAの火星探査機「メイブン」に搭載されている紫外線撮像分光器「IUVS」による火星大気の観測から、上層大気中の水素ガスから放射される紫外線が数時間輝いていたと思われるデータが得られた。同時に、メイブンの別の観測機器である太陽風イオン分析器「SWIA」は、太陽風内の陽子の増加を観測していた。

「メイブン」による火星の陽子オーロラの観測。上段:火星大気に衝突する太陽風の陽子の様子。下段:紫外線撮像分光器「IUVS」がとらえた、太陽風が強くなった際に大気から放射された紫外線の変化(提供:NASA/MAVEN/University of Colorado/LASP/Anil Rao)

太陽からは時速300万km以上の速度で太陽風が放出されており、強力な熱によって電子を失った水素が陽子(水素原子)として太陽風に乗って太陽系内を動いていく。メイブンが観測したのは、この陽子が火星大気と作用し、紫外線で輝く陽子オーロラが発生した様子と考えられる。

しかし、帯電した太陽風粒子は、惑星の周りに広がる磁気を帯びた障害物「バウショック」によって惑星から逸らされてしまうはずだ。陽子はどのようにして火星のバウショックを通過したのだろうか。また、原子が光るためには電子が必要だが、太陽風の陽子はどのように電子を獲得したのだろうか。

米・コロラド大学大気宇宙物理学研究所のJustin Deighanさんはこの疑問について、次のように説明している。「太陽風の陽子は、火星に近づくと、惑星を取り囲んでいる巨大な水素雲の端から電子を奪って中性原子へ変化します。バウショックが逸らすことができるのは帯電した粒子だけなので、中性原子はそのまま通過することができるのです」。

火星の大気内へ高速で入ってきた原子は、速度が落ちるまでに大気内で分子と数百回衝突し、その一部のエネルギーが紫外線として放射される。この紫外線がIUVSでとらえられたのだろう。

陽子オーロラの発生メカニズム
火星における陽子オーロラの発生メカニズムを示したアニメーション(提供:NASA/MAVEN/Goddard Space Flight Center/Dan Gallagher)

「火星で見られる陽子オーロラは、単なる光のショーというだけではありません。太陽風が完全には火星から逸れず、太陽風の陽子がどのようにバウショックを通過して大気と衝突するのかを、私たちに示してくれました」(米・アイオワ大学 Jasper Halekasさん)。

陽子オーロラは地球でも発生するが、火星ほど頻繁ではない。大きな違いの一つは、地球は固有磁場が強いために火星に比べて大きな角度で太陽風が地球から逸れてしまうことだ。そのため、地球で陽子オーロラが発生するのは極域の小さな領域に限られる。また、金星や土星の衛星タイタンは、火星のように磁場が弱く、上層大気中の水素が多いので、陽子オーロラが発生するだろう。

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