銀河中心のブラックホールに引き裂かれた星からのパルス
【2019年1月16日 マサチューセッツ工科大学/ヨーロッパ宇宙機関/チャンドラ】
大質量銀河の中心には、太陽の数百万倍から数億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在する。こうした超大質量ブラックホールのすぐ近くを恒星が通りかかると、ブラックホールの強力な潮汐力によって星が破壊される。破壊後の物質はブラックホールへと向かって渦を巻きながら落ち込んでいき、ブラックホールの周囲を回転しながら高温になってX線を放射する。
この潮汐破壊現象が起こることは1つの銀河あたり数十万年に1回ほどと珍しいが、観測できればブラックホールの質量や自転について知ることができる。ブラックホールと銀河の間には密接な関係があると考えられており、ブラックホールの研究は銀河の成長を知ることにもつながる。
2014年11月、かみのけ座の方向の約3億光年彼方にある銀河で突発的な増光現象が観測され、「ASASSN-14li」と命名された。その後、ヨーロッパ宇宙機関のX線宇宙望遠鏡「XMMニュートン」やNASAのX線宇宙望遠鏡「チャンドラ」などにより、ASASSN-14liから131秒周期でX線バーストが発生していることや、そのバーストが450日以上にわたって継続したことが観測された。
米・マサチューセッツ工科大学カブリ物理学宇宙研究所のDheeraj Pashamさんたちの研究チームによると、このような特徴はまさに潮汐破壊現象に由来するもので、X線が「事象の地平線」と呼ばれる境界(これより内側に入るとブラックホールから逃れられない距離範囲)のすぐ外側にある「最深安定軌道」から放射されているという理論モデルと一致している。
以前の研究により、ASASSN-14li事象を起こしたブラックホールの質量は太陽の100万倍であることがわかっており、このデータを合わせた解析から、ブラックホールの自転速度が光速の50%以上であることが明らかになった。潮汐破壊現象の観測からブラックホールの自転速度が判明したのは今回が初めてであり、潮汐破壊現象がブラックホールの自転を調べるうえで利用できることを示した成果である。
「今後、同様の現象がもっと検出され、初期宇宙から現在までのブラックホールの自転を明らかにできれば、ブラックホールの年齢と自転との間の関連性についても貴重な情報となるでしょう」(Pashamさん)。
〈参照〉
- MIT News:X-ray pulse detected near event horizon as black hole devours star
- ヨーロッパ宇宙機関:XMM-Newton Captures Final Cries of Star Sheredded by Black Hole
- Chandra X-ray Observatory:Shredded Star Leads to Important Black Hole Discovery
- Science:A loud quasi-periodic oscillation after a star is disrupted by a massive black hole 論文
〈関連リンク〉
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