超大質量ブラックホールの周りに隠れていたプラズマガスの2つのリング
【2024年3月5日 京都大学】
多くの銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍にも達する質量を持つ超大質量ブラックホールが存在する。その周囲にはブラックホールの重力に引かれたガスが集まり、降着円盤と呼ばれる構造を形成している。一部の降着円盤は非常に明るく輝いていて「活動銀河核」として観測されるが、その構造については大まかに推定されるにとどまっていて、ガスの詳細な構造や速度はよくわかっていない。
活動銀河核の内部を詳細に観測するには、観測の角度分解能(解像度、視力)を上げるか、複数回観測を行って時間分解能を上げる必要がある。このうち角度分解能を上げる手法としては、史上初のブラックホールシャドウの撮像に成功した「イベント・ホライズン・テレスコープ」のように世界中の電波望遠鏡の連携が活発に利用されている。しかし、当然ながら電波望遠鏡による観測では、電波を発しない構造の大部分を見ることはできない。
京都大学の名越俊平さんたちの研究チームは、プラズマガスが強く観測される可視光線の波長で時間分解能を上げた観測を行い、活動銀河核の空間的な構造を復元するという手法を用いた研究を行った。
活動銀河核の中には、急激に質量を獲得している状態と緩やかに質量を獲得している状態とを遷移するような現象(状態遷移現象)を示す天体がある。こうした天体は、質量獲得の効率が変動すると同時に周囲に放射する光の強度も変動し、その変動が周辺の構造へ影響を及ぼすことがある。名越さんたちはそのような活動銀河核の一つである、りょうけん座の「SDSS J125809.31+351943.0」を観測対象に選んだ。この天体は過去約30年間に約4等級も明るさが変動した、観測史上最大規模の状態遷移現象を起こした活動銀河核だ。
研究チームは構造を詳細に推定するために、「反響マッピング」と呼ばれる手法を用いた。プラズマガスは降着円盤からの光によってエネルギーを獲得してプラズマ状態となっているため、降着円盤からの光の強度変化に対して時間差で追従するように強度が変化する。この時間差を光の伝搬時間として、降着円盤からプラズマガスまでの距離を推定できる。名越さんたちは降着円盤からの光とプラズマガスからの光の波長が異なることを利用し、京都大学岡山天文台「せいめい望遠鏡」でのモニター分光観測などによる多波長の時系列データから研究を行った。
その結果、従来の考えとは異なるプラズマガスの分布が明らかになった。これまで、ブラックホール中心付近のプラズマガスは降着円盤の放射を受けやすい領域にひとかたまりで分布していると考えられていた。しかし今回、降着円盤からの高エネルギー照射の影響を受けやすい比較的低速なプラズマ領域が内側に、影響を受けにくい比較的高速なプラズマ領域が外側に、それぞれリング状となって分布していることが初めて明らかになった。
今回明らかになった現象が活動銀河核で一般的なのか、それとも特定の天体に限られるものなのかは、今回の研究範囲からは判断できない。今後の研究で事例が増え理解が進むことが期待される。
〈参照〉
- 京都大学:超巨大ブラックホールの周囲に隠れたリング ― 時系列データから復元された立体構造
- MNRAS:Probing the origin of the two-component structure of broad-line region by reverberation mapping of an extremely variable quasar 論文
〈関連リンク〉
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