初期宇宙で初めて見つかった水素ガスの大規模構造「宇宙網」

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アルマ望遠鏡、すばる望遠鏡などの観測により、115億光年離れた宇宙に、銀河同士をつなぐように淡く帯状に広がった水素ガスの大規模構造「宇宙網」が初めて発見された。

【2019年10月10日 すばる望遠鏡

地球から100億光年以上離れた(現在から100億年以上前の)初期宇宙には、銀河が活発に生まれ育つ時代があったことが観測からわかってきている。初期宇宙では、天の川銀河の数百倍から数千倍もの速さで星を生み出す銀河が存在し、銀河の中心では太陽の約1億倍という大質量ブラックホールが急速に成長していたと考えられている。

これらの銀河や大質量ブラックホールを成長させるために欠かせない原材料が、水素を主成分とするガスだ。銀河形成モデルによると、水素ガスは「宇宙網」と呼ばれるネットワークを形成し、その中でガスの凝集が進んで銀河やブラックホールが形成・成長すると考えられてきた。

宇宙網のシミュレーション画像
宇宙網のシミュレーションの例(提供:理化学研究所、以下同)

銀河形成モデルを検証するうえで宇宙網の観測は重要な鍵となるが、宇宙網が放つ光は非常に弱いため、これまで観測は困難であった。

理化学研究所の梅畑豪紀さんたちの国際共同研究チームは、地球から115億光年離れたみずがめ座方向の原始銀河団「SSA 22」に注目し、宇宙網の検出に挑んだ。これまでの観測で、SSA 22には活発に星を生み出している銀河や成長を続ける大質量ブラックホールが存在することが知られていたが、宇宙網についてはわかっていなかった。

梅畑さんたちはまず、アルマ望遠鏡を用いて星で温められた塵を観測し、星形成の活発な銀河を探し出した。またX線天文衛星「チャンドラ」の観測データから大質量ブラックホールの探査を行い、銀河とブラックホールの分布図を作成した。さらにケック天文台などの分光観測によって天体までの距離を決定し、400万光年ほどの範囲に星形成の活発な銀河や大質量ブラックホールが18個密集していることを明らかにした。

宇宙網の主な成分である水素ガスは、銀河や大質量ブラックホールからの光を受けて紫外線を放つが、初期宇宙からの紫外線は宇宙膨張によって波長が長くなり、可視光線として観測される。そこで、すばる望遠鏡の広視野カメラ「シュプリーム・カム」の可視光線での観測画像を解析したところ、広がった水素ガスが銀河や大質量ブラックホールをつなぐように分布している様子が見えてきた。

さらに、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTでの追観測も行われ、水素ガスの大規模な帯状構造の存在が初めて確かめられた。こうして、X線から可視光線、赤外線、ミリ波と様々な観測を組み合わせることで、星形成の活発な銀河、大質量ブラックホール、宇宙網を網羅した3次元地図を描き出すことができ、銀河や大質量ブラックホールが例外なく宇宙網に沿って分布していることも明らかにされた。

宇宙網と3次元分布図
(左)青い部分が水素ガスの宇宙網。背景はすばる望遠鏡による可視光線観測で得られた天体地図。(右)宇宙網の3次元分布。青色が比較的淡く見える部分、紫色が比較的明るく見える部分を表す。銀河や大質量ブラックホール(赤の四角印)が宇宙網に沿って分布していることがわかる

今回の結果は、宇宙網に沿って水素ガスが銀河や大質量ブラックホールに流れ込み、そのガスを材料として銀河や大質量ブラックホールが成長するという理論・シミュレーションによる予測を、観測の面から支持するものとなる。また、数多くの銀河や大質量ブラックホールに由来する光が宇宙網を明るく照らしていることが、今回の検出につながったと考えられている。

今後、初期宇宙でどのようにして銀河や大質量ブラックホールが形作られていったのか、宇宙網がその進化をどのように制御したのかがさらに詳しく調べられ、その理解が進むことが期待される。

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