再挑戦で雪辱、ファエトンによる恒星食の観測に成功

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10月16日未明、DESTINY+サイエンス検討チームとアマチュアを中心とする観測隊が、謎の多い活動型小惑星ファエトンによる恒星食の観測に成功した。

【2019年10月23日 星ナビ編集部

報告:早水勉さん(佐賀市星空学習館HAL星研

小惑星ファエトン((3200) Phaethon)はふたご座流星群の母天体で、JAXAの「DESTINY+」ミッションの目標天体となっている。ファエトンを探査の前に調査する目的で、8月22日に函館でプロ・アマチュアの混成チームが編成されたことは、星ナビ11月号、およびアストロアーツニュース「あと一歩!雲にさえぎられたファエトン」にて既報の通りである。

残念ながらこの観測は天候に恵まれずに不成功に終わったが、DESTINY+サイエンス検討チームは次のチャンスに狙いを定めていた。10月16日(水)2時35分ごろ、宮城県登米市、大崎市から山形県鶴岡市を結ぶ線上を予報恒星食帯とする11.5等星(TYC3292-570-1)の恒星食だ。国際掩蔽観測者協会により本年日本で予報されているファエトンによる恒星食はこれがラストチャンスだったが、41度離れたところに満月2日後の強烈な月光があるうえに、減光は最長でも約0.2秒という、8月の現象よりもさらに厳しい観測条件だった。

今回の現象の観測にあたり、実績豊富なつわものたちが再集結した。事前の協議が入念に行われ、天候のリスクを少なくするために太平洋側から日本海側にかけて多数の観測候補地が選定され、最終的には10地点に布陣した。

観測布陣
2019年10月16日の小惑星ファエトンによる恒星食観測の布陣。天候のリスクを少なくするために東西にわたって布陣が計画された。青丸の地点では食による減光が観測された。画像クリックで表示拡大(地図画像の出典:Google, INEGI)

天のいたずらか、現象当日は、またしても雲や霧の発生などで天候に悩まされた。このため今回も、直前の判断で観測地を移動した班もあったが、その努力が実り宮城県北部の2地点で食による減光の観測に成功した。

下の図は、観測から得られた速報値に基づく整約結果だ。井田三良さん(大崎市に布陣)と冨岡啓行さん(品川征志さん、川上勇さん、藤井旭さんらとともに登米市に布陣)の両ベテラン観測者により、減光が記録された。観測から、恒星食はほぼ予報通りに起こったことがわかる。

整約図
観測から得られた整約図(ビデオによる再測定により、2019年11月5日に暫定版から改定)。点線は、天候等の理由で不成立。石田さんは現象まであと5秒のところで雲に覆われてしまった。PERCはDESTINY+サイエンス検討チーム(吉田二美さん、荒井朋子さん、洪鵬さん)

今回の成功は、もちろん函館遠征のノウハウが活かされたもので、本番の小惑星探査のための重要なデータを提供するものとなる。さらにこの実績は、今後も同じような小惑星探査において、恒星食の観測が地上からの事前調査に極めて有効な手段であることを示す貴重な前例となることだろう。