小惑星ディディモスによる恒星食の観測成功

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9月27日、NASAの探査機「ダート」を小惑星ディディモスの衛星ディモルフォスに衝突させる実験が行われた。その小惑星ディディモスが恒星を隠す掩蔽(恒星食)の観測に、日本の観測チームが成功した。

【2022年10月28日 星ナビ編集部

報告:渡部勇人さん(JOIN)

探査機ダート(DART)の衝突実験の対象となった衛星ディモルフォスの母天体であるディディモス((65803) Didymos)は、推定直径780mほどしかない小型の小惑星です。地球上で星が隠される幅は約800m、恒星が見えなくなる時間は最長でも0.2秒にも満たないという、極めて難しい観測でした。10月に日本付近を通る3回の予報の内2回の予報に、JOINのメンバー8名が参加。7月末の観測では減光をとらえることができず涙を飲んだことから、今度こそはと、どんどん更新される予報に翻弄させながらも、オンラインミーティングで観測位置を詰めていきました。

観測風景と観測メンバー
(左)渡部の観測機材、Sky-Watcherの14インチンチドブソニアンGOTO WiFi。(右)7月に奈良で観測したメンバー。今回のメンバーとは異なる。この時は他に兵庫へも遠征した。画像クリックで表示拡大(提供:瀧本麻須美)

8月から10月上旬までの間、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなど世界各地で観測が行われましたが、成功したという情報は入ってきませんでした。次は日本チームのチャンスと、OWC(オカルトウォッチャークラウド)に掲載されているヨーロッパ宇宙機関(ESA)のACROSS予報を採用することに決定。10月18日(日本時19日明け方)の予報は、長野県、三重県、和歌山県に分かれ、間隔を空けて各自の観測地を決めました。しかし、観測日前日にACROSSから、海外での未公表の観測結果から東に600mほど予報がズレる可能性があるとの情報を入手し、それまでの200mから300mの観測者間隔を、100mから200mほどに変更し、東へのシフト体制をとることに。隠される星は、いっかくじゅう座のTYC-4812-01039-1(11.2等)。長野県と和歌山は曇りで観測できませんでしたが、三重県松阪市で布陣した5か所の内、3か所では減光なしだったものの、2か所で減光をとらえることができました。

この結果から、翌10月19日(日本時20日)の掩蔽帯は東へのシフト量が200mほどと推定。SNSのLINEで情報の共有を図り、観測者間隔を100mに縮めて、長野県、愛知県、三重県、和歌山に布陣しました。隠される星は、いっかくじゅう座のUSNO-A2.0 825-3511425(12.7等)。各地とも天候に恵まれ、減光なしの1か所を除き6か所で減光の観測に成功しました。これらの観測結果はすぐにACROSSに連絡し、私たちの10月18日の観測と未公表のアメリカとスペインの観測を含め、10月21日にESAがプレスリリースを発行しました。

掩蔽帯図と整約図
10月18日、19日の掩蔽帯図と観測ポイント(作成:渡部勇人 電子国土地図等で作成)と暫定整約図。ディディモスの断面が浮かび上がりつつある(整約図作成:渡辺裕之)。10月18日、19日の観測に参加した日本チームのメンバー:井田三良(滋賀県東近江市)、山村秀人(滋賀県米原市)、北崎勝彦(東京都武蔵野市)、渡辺裕之(岐阜県垂井町)、真砂礼宏(和歌山県上富田町)、浅井 晃(三重県桑名市)、瀧本麻須美(三重県亀山市)、渡部勇人(三重県いなべ市)、(順不同)。画像クリックで表示拡大

世界で3番目の観測成功となりましたが、複数箇所での減光観測は世界初となりました。現在チームでは10月18日、19日の観測結果の解析を進めています。さらに、10月28日明け方の予報に、福井県、大阪府、徳島県に分かれて観測し、徳島の2地点でディディモスの減光をとらえることに成功しました。これらの結果は、メンバーひとりひとりの熱い思いとチームの団結力があったのはもちろんですが、ご支援くださる国内外の掩蔽関係の皆さんや家族の協力などもあって達成したものと、心から感謝しております。

観測動画
10月18日の渡部さんの観測動画。17時56分52秒に、ほんの一瞬星が消えるのがわかる。対象星は赤経6時50分15.8秒、赤緯−6度42分44.7秒、TYC-4812-01039-1(11.2等)。画像クリックで動画再生

「星ナビ」2023年1月号で報告記事を掲載します。

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