世界最高解像度の気球望遠鏡が宇宙ガンマ線を観測
【2023年5月31日 神戸大学】
宇宙から届くあらゆる電磁波の中でもとくに波長が短くエネルギーが高いガンマ線の観測は、宇宙線物理学・高エネルギー天体物理学・宇宙論・基礎物理学と多岐にわたる学術領域に波及効果をもたらす。また、近年のニュートリノや重力波も含めたマルチメッセンジャー天文学においてガンマ線は決定的に重要なパートを担っている。しかし、ガンマ線観測は他の波長帯の観測と比べて桁違いに解像度が劣っているなどの課題がある。
この問題を解決するため、神戸大学の青木茂樹さんをはじめとする研究チームは、荷電粒子の飛跡を記録することに特化させた銀塩写真フィルムであるエマルションフィルム(原子核乾板)に着目した。エマルションフィルムは、飛来したガンマ線から電子と陽電子が対生成される様子を高い空間分解能でとらえることが可能だ。
青木さんたちはフィルムを用いたエマルションガンマ線望遠鏡(以降「エマルション望遠鏡」)を気球に搭載して飛翔を繰り返すことで、宇宙高エネルギーガンマ線の精密観測の実現を目指す「GRAINE計画」を進めており、2011年、2015年、2018年に飛翔実験(JAXA豪州気球実験)を行っている。高高度に打ち上げることで、大気によるガンマ線の吸収の影響を少なくすることができる。2018年には既知の明るいガンマ線源である「ほ座パルサー」を、世界最高解像度で撮像することに成功した。
最新の観測実験は今年4月30日に行われ、口径面積が2.5m2と従来の6.6倍へ拡大されたエマルション望遠鏡が、オーストラリア・ノーザンテリトリー州のアリススプリングスから空へ放たれた。
気球は約2時間で高度36kmに達した後、風に乗って水平浮遊を開始すると、ほ座パルサーおよび天の川銀河の中心が望遠鏡の視野を横切る時間帯を完全にカバーするように飛翔した。翌5月1日に、気球から切り離された望遠鏡はパラシュートで無事地上に着地し、「世界最高角度分解能」、「世界初偏光有感」、「世界最大口径面積」を実現する実験を無事終えた。飛翔総時間は27時間で、そのうち高度35.4~37.2kmでの水平浮遊時間24時間17分はこれまでで最も長い飛翔時間となった。
エマルションフィルムは日本に送られており、岐阜大学の大規模現像施設における現像処理や名古屋大学の自動飛跡読取装置による飛跡の読み出し作業を経てデータ解析開始となる。「自分達の手で作った装置で、世界で誰もやったことのない観測に挑戦できることはこの上ない喜びです。これから始まる観測データ解析が非常に楽しみです。結果にご期待ください」(素粒子宇宙起源研究所 六條宏紀さん)。
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