3種の高エネルギー粒子の起源は同じかもしれない

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超高エネルギー宇宙線と非常に高エネルギーのニュートリノ、高エネルギーガンマ線という3種類の粒子の起源が同じである可能性がシミュレーション研究で示された。ブラックホールからの相対論的ジェットがその起源かもしれないという。

【2018年1月29日 PennState Eberly College of Science

超高エネルギーの(ultrahigh-energy)宇宙線、非常に高エネルギーの(very high-energy)ニュートリノ、高エネルギー(high-energy)のガンマ線の起源は、宇宙素粒子物理学における最大の謎の一つである。「これら3種類の粒子は、1個ずつで考えると10桁もエネルギーが異なります。それにもかかわらず宇宙へ放出されるそれぞれのエネルギー量は驚くほど似ています。粒子同士の間に何らかの物理的な関係があるのではないかと考えました」(米・ペンシルベニア州立大学 村瀬孔大さん)。

超高エネルギーの宇宙線は宇宙で最大のエネルギーを持った粒子であり、そのエネルギー量は世界最大の大型ハドロン衝突型加速器をもってしても生成不可能なほどである。ニュートリノは物質とほとんど作用することがない粒子だが、100万メガ電子ボルト以上の非常に高エネルギーを持つニュートリノが南極地下に設置されているニュートリノ検出器「IceCube (アイスキューブ)」で検出されている。そしてガンマ線は電磁波の中で最も高エネルギーで、NASAのガンマ線天文衛星「フェルミ」などで観測されている。「これら3つの宇宙の『メッセンジャー』に関するすべての情報を組み合わせることは、補完的で関連性があります。マルチメッセンジャー的な研究手法は、近年極めて有効な手段になっています」(村瀬さん)。

これまでの研究で、最高エネルギーの宇宙線の起源は活動銀河核にあると考えられてきた。活動銀河核のなかには強力な相対論的ジェットを放射しているものがあり、そのジェットや近傍で生み出された高エネルギー宇宙線が光速に近い速さで宇宙空間に放たれる。

米・メリーランド大学カレッジパーク校のKe Fangさんと村瀬さんは数値シミュレーションによって、宇宙線を含む3種の粒子の起源を研究した。「私たちのモデルではまず、活動銀河核の強力なジェットによって加速された宇宙線が、ジェットの先によく見られる『電波ローブ』を通って放射されます。この宇宙線が銀河団や銀河群に広がる磁場の中を伝播したり相互作用したりする様子と、放射源と地球との間にある磁場と宇宙線との伝播や相互作用を計算しました」(Fangさん)。

「この計算により、活動銀河核から逃げ出す超高エネルギー宇宙線や銀河団などの環境が、宇宙線のスペクトルや組成を説明できることを示せました。この結果は、地上実験で発見された不可解な現象のいくつかを説明することもできます。同時に、1億メガ電子ボルト以上の非常に高エネルギーのニュートリノのスペクトルも、宇宙線と銀河団や銀河群内のガスの粒子衝突によって説明できます。さらに、銀河団や銀河間空間からやってくるガンマ線放射は、拡散した高エネルギーガンマ線背景放射の原因不明の部分と一致します」(Fangさん)。

マルチメッセンジャー放射を描いたイラスト
超大質量ブラックホールの強力なジェットによって加速された莫大な量の宇宙線からのマルチメッセンジャー放射を描いたイラスト(提供:堀尾佳乃子)

「私たちのモデルは3種類の高エネルギー粒子が、同じクラスの天体物理学的な起源と、高エネルギーニュートリノとガンマ線に共通のメカニズムによって互いに物理的にどう関連しあっているのかに関する、大統一モデルの確立という試みへの道を開くものです。まだ説明が必要な謎も残されていますから、マルチメッセンジャー・データと理論を合わせたマルチメッセンジャー・アプローチに基づくさらなる調査が、モデルを試すために極めて重要です」(村瀬さん)。

「マルチメッセンジャー・粒子天体物理学の黄金時代は、最近始まったばかりです。様々な種類のメッセンジャーから得られるすべての情報が、極端に高いエネルギーを持つ粒子の物理や宇宙のより深い理解に関わる新たな知識を得るために重要なのです」(村瀬さん)。

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