初期宇宙の銀河に予想以上に多く窒素が存在
【2023年12月18日 東京大学宇宙線研究所】
宇宙がビッグバンで誕生した138億年前には、水素やヘリウムなどの軽い元素しか存在していなかった。炭素や酸素、窒素といった重い元素は恒星内部の核融合反応で作られ、超新星爆発などによって周囲に放出されたと考えられている。これまでの研究から、酸素については初期宇宙で急激に増えたことが明らかになっているが、炭素と窒素がいつごろ多く作られたのかは不明だった。
東京大学宇宙線研究所の磯部優樹さんたちの研究チームは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の高感度赤外線観測データを詳細に解析し、初期宇宙に存在する71個の銀河に含まれるガス中の元素の存在比を調べた。すると、129億年から134億年前の初期の宇宙にある3つの明るい銀河で、窒素が炭素や酸素に比べて異常に多いという結果が得られた。その存在比は、天の川銀河のガスと比べて3倍以上も大きい。初期宇宙の銀河で、炭素や酸素に対して窒素が多く存在することは理論的に予想されておらず、今回初めて明らかになった事象だ。他の68個の銀河も同様に、炭素や酸素に対して窒素が多い可能性があるとみられている。
「134億年前の宇宙まで見ても炭素や窒素ガスが十分にあって、それらから放たれた光が検出できたことに驚きました。さらに、それらの元素のうち窒素の存在比が予想外に大きいという結果が出た時は衝撃的でした」(磯部さん)。
今回発見された銀河のガス中の窒素の存在比は、超新星爆発で放たれるガスよりも大きい。このことは、初期宇宙では一般的に考えられている元素の主な供給メカニズムとは異なるメカニズムが働いていた可能性を示唆するものだ。「今回見つかった炭素と酸素、窒素ガスの存在比は、恒星の外層にあるガスの成分に近いことがわかりました。恒星の外層にあるガスだけが流れ出たか、もしくはブラックホールによるガスの引き離しなどで宇宙空間に放出されたのかもしれません」(国立天文台 冨永望さん)。
「その場合でも、やがては超新星爆発が起こって恒星の内側のガスが大量に宇宙空間に出てきてしまい、宇宙空間のガス全体としては普通の存在比になってしまいます。恒星の内側のガスが撒き散らされないほど、超新星爆発が弱かったのかもしれません。あるいは、恒星の内側が強い重力で潰れてブラックホールになったのかもしれませんが、そうすると初期の宇宙は多くのブラックホールで満ち満ちていたことになり、それはそれでやはり驚きです」(宇宙線研究所/国立天文台 大内正己さん)。
「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のおかげで、私たちが想像していなかった初期宇宙の様子が明らかになりました。新たな謎も出てきましたが、さらなる観測で解明に挑んでいきたいです」(磯部さん)。
〈参照〉
- 東京大学宇宙線研究所:予想以上の窒素ガスが初期の宇宙に存在―炭素、酸素に対する大幅な超過
- The Astrophysical Journal:JWST Identification of Extremely Low C/N Galaxies with [N/O]≳0.5 at z∼6-10 Evidencing the Early CNO-Cycle Enrichment and a Connection with Globular Cluster Formation 論文
〈関連リンク〉
- NASA - James Webb Space Telescope:
- STScI:
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