「宇宙ぶどう」が破った銀河誕生の常識

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JWSTとアルマ望遠鏡によって、宇宙誕生から9億年後の宇宙初期に存在した銀河が高解像で観測された。内部に見つかった、ぶどうの房のような粒々とした構造は、これまでの観測や数値シミュレーションでは予想されていなかったものだ。

【2025年8月18日 アルマ望遠鏡

これまで、宇宙初期の銀河の観測は大きく明るいものを主な対象としてきたが、これらは特殊で例外的な銀河という可能性がある。宇宙初期の銀河進化の全体像をつかむためには、より数が多い一般的な銀河の姿を明らかにすることが必要となるが、そのような銀河は小さく暗いため、従来の観測では調べることが困難だった。

カナダ・トロント大学の藤本征史さんたちの研究チームは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とアルマ望遠鏡を用いた100時間以上に及ぶ観測で、宇宙誕生からわずか9億年後の宇宙初期に見つかっていた銀河を調べた。この天体はうさぎ座の方向にあり、手前に存在する銀河団の重力レンズ効果によって像が拡大されている。2つの強力な望遠鏡と天然のレンズ効果のおかげで、宇宙初期の銀河を約30光年まで分解して精密に観測することに成功した。

その結果、なめらかにガスが回転する銀河の中に、コンパクトな星団がいくつも集まっていることが明らかになった。少なくとも15個以上の星団が見られる様子は「ぶどうの房」のようでもある。宇宙初期の若い回転銀河で、分裂した内部構造が共存することが示されたのは初めての成果だ。

銀河団「RXC J0600-2007」と「宇宙ぶどう」
銀河団「RXC J0600-2007」と、高解像度の観測によってぶどうの房のような粒状の構造が見つかった「宇宙ぶどう」銀河(提供:NASA/ESA/CSA/Fujimoto et al.)

この「宇宙ぶどう」銀河の質量や大きさ、化学組成、星形成活動などは、同時代の一般的な銀河と違いはない。つまり、他の多くの銀河でも、内部に多数の星団を含む複雑な構造があるのかもしれない。

「私たちが世界をどう見て、認識するかは、文字通り“見る”力に制限されます。今回、かつてない感度と解像度の実現により予想していなかった深宇宙の描像が明らかになってきました。今後の理論研究や望遠鏡開発に新たな目標を与える発見です」(藤本さん)。

また、ぶどうの房のような内部構造は数値シミュレーションでは再現されておらず、現在の理論では、宇宙初期の回転銀河は比較的滑らかな構造をとると考えられている。今回の“粒々した銀河”の発見は、銀河内部での超新星爆発やブラックホールなどによるエネルギーの放射とそれに伴う星形成のメカニズムに対する理解を考え直す必要性を提示しているのかもしれない。

「理論で予測されていなかったこのような初期の宇宙の姿は、私たちの想像を超えていました。今後もさらに観測研究を進めて初期宇宙の姿を明らかにしていくことが楽しみです」(国立天文台 大内正己さん)。

星団が誕生している宇宙初期の銀河の想像図
今回の観測結果を元に描かれた、回転する銀河内で複数の星団が誕生している宇宙初期の銀河の想像図(提供:NSF/AUI/NSF NRAO/B.Saxton)

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