「みお」水星スイングバイ時のデータが示す磁気圏の様相

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昨年6月の水星スイングバイの際に探査機「ベピコロンボ」が取得した観測データの解析から、水星の磁気圏内の様々な様相が明らかになった。

【2024年10月10日 JAXA宇宙科学研究所

2018年10月に打ち上げられた日欧共同の国際水星探査ミッション「ベピコロンボ」は、JAXAの水星磁気圏探査機「みお(MMO)」とヨーロッパ宇宙機関の水星表面探査機「MPO」の2機が1つとなって、水星を目指して航行中だ。

ベピコロンボの主要目的の一つは、水星磁気圏の太陽風に対する応答とその中に含まれる粒子の特性を探ることである。水星は地球と同様に磁場を持つ岩石惑星で、表面の磁場は地球磁場の100分の1、内部磁場は地球の2000分の1しかないが、その磁場が作り出す磁気圏は太陽風(太陽から吹き出すプラズマ粒子の流れ)に対する緩衝材となっている。

水星は太陽に近いため、太陽風は地球の10倍も強く変動も激しく、水星磁気圏や惑星表面と太陽風との相互作用は地球よりもはるかに強い。そのため、太陽風が惑星の磁気圏とどのように相互作用しているかの理解を進める上で、水星磁気圏の観測は極めて重要だ。

ベピコロンボは2026年11月の水星到着までに計9回(地球1回、金星2回、水星6回)の惑星スイングバイを予定していて、2023年6月20日(日本時間)に3回目の水星スイングバイを実施した。その際に探査機は水星磁気圏を約30分かけて横断し、水星表面からわずか235kmの距離にまで接近して科学観測を行った。

仏・プラズマ物理学研究所(など)のLina Hadidさんたちの研究チームは、「みお」に搭載されたイオン質量分析器などによる観測データとプラズマ粒子の数値シミュレーションとを組み合わせて、観測されたプラズマの起源を特定し、磁気圏内の様々な様相を明らかにした。

まず、スイングバイの前半で、太陽風が自由に流れる領域と磁気圏との境界である低緯度境界層が予想通りに検出された。これにより、NASAの水星探査機「メッセンジャー」による観測から想定されていたよりも広範なエネルギーを持つ粒子がとらえられた。

また、「みお」は磁気圏に捕捉されたとみられる高エネルギーイオンを赤道面付近と低緯度で観測した。地球では地表から数万km離れた場所に、磁気圏に捕捉された帯電粒子によって運ばれ惑星の周りを流れる巨大な電流「リングカレント」が存在しているが、「みお」が観測したものも同様の現象とみられる。

水星磁気圏の描像
「ベピコロンボ」の3回目水星スイングバイ時の水星磁気圏の描像。探査機はまずバウショックに到達し、磁気圏界面を通過した。その後、夕方側の低緯度境界層で様々なエネルギーのプラズマ粒子を観測した。さらに「プラズマシートホーン」と呼ばれる領域(プラズマシートが水星高緯度域につながる領域)に突入し、熱いイオンや電子を観測したほか、高エネルギーのイオンと電子を赤道平面近くと低緯度で観測した。これらの特徴から、探査機は水星のリングカレントを通過したことが強く示唆される(提供:ESA、日本語翻訳:JAXA)

さらに「みお」は、微小隕石の衝突や太陽風との相互作用などによって水星表面から飛び出した中性粒子がイオン化した「惑星起源イオン」も観測した。惑星起源イオンの観測は惑星表面とプラズマ環境の間のつながりの調査と同義であり、今後多くの知見が得られると期待される。