さらに謎が深まった宇宙リチウム問題

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ビッグバンによる元素合成で起こる反応の一つについて確率が測定され、従来の推定値よりもずっと小さいことが明らかになった。「宇宙リチウム問題」解決策の見直しが必要とされる。

【2017年2月15日 京都大学

宇宙は約138億年前に起こった「ビッグバン」で誕生したと考えられている。宇宙開闢の約10秒後から20分後にかけて「ビッグバン元素合成」が起こり、水素、ヘリウム、リチウムなどの軽い元素が生成された。こうした宇宙初期における軽元素の生成量について、観測による推定値とビッグバン元素合成の計算による予測値を比較することは、宇宙創生のシナリオを明らかにするうえで極めて重要な知見をもたらす。

水素とヘリウムの同位体については、生成量の観測推定値と理論予測値がよく一致している。しかし、リチウム同位体の一つであるリチウム7(7Li)については、観測推定値が理論予測値の約3分の1しかないという重大な不一致が知られている。この不一致は「宇宙リチウム問題」と呼ばれ、ビッグバン理論に残された深刻な問題として世界中の研究者の関心を集めている。

7Liはベリリウム7(7Be)が崩壊して生成されたと考えられており、この7Beの生成量そのものを小さくしたり、7Beから7Li以外へ変わる反応を大きくしたりして、結果的に7Liの生成量を小さくする説明が試みられてきた。後者については、7Be+n→4He+4He反応(ベリリウム7と中性子から2個のヘリウム4ができる反応)が高い確率で起こるという仮説が考えられてきたが、7Beと中性子が短寿命の不安定核であるため、その確率の測定は容易ではなかった。

京都大学の川畑貴裕さんたちの研究グループは、逆反応である4He+4He→7Be+n反応の断面積(反応を起こす確率を表す量)を測定するという手法を用いて、7Be+n→4He+4He反応の断面積を決定することに成功した。そして、この断面積が、これまでビッグバン元素合成の理論計算に広く用いられていた推定値より約10倍も小さい値であることを示した。

宇宙における反応と今回測定した逆反応
宇宙における反応と今回測定した逆反応の説明図(提供:京都大学)

今回の結果から、7Liの観測推定値が小さいことに対する説明として、宇宙初期における「中性子が7Beに衝突し2つの4Heに分解する反応」の寄与は非常に小さいことが明らかになった。「宇宙リチウム問題」の有力な解決策が否定され、ビッグバン元素合成の謎はさらに深まってしまった。

「学部生の卒業研究として実施したこの研究が、世界的に注目を集める成果として結実したことを嬉しく思います。残念ながら『宇宙リチウム問題』を解決するには至りませんでしたが、原子核反応率の見直しや標準ビッグバン模型を超える新しい物理の探索など、宇宙リチウム問題へのさらなる研究を動機づけることになると思います」(川畑さん)。

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