過剰なリチウムは赤色巨星の進化段階を示す

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一部の赤色巨星からは異常に多くのリチウムが検出されているが、その大半はヘリウムの核融合を開始した「クランプ星」であることが判明した。

【2020年10月12日 すばる望遠鏡

主系列星という段階にある恒星の中心部では水素をヘリウムに変換する核融合が起こっており、それによって生じるエネルギーで長期間にわたり輝き続けることができる。やがて中心部がヘリウムに置き換わってしまうと、水素の核融合はその周辺で起こるようになる。このとき恒星は大きく膨らみ、太陽のような比較的軽い恒星は赤色巨星とよばれる段階に移行する。

この状態が進行すると恒星は次第に明るさを増し、中心部にヘリウムがたまっていく。やがて中心部の温度が上がるとヘリウムが核融合を始め、周辺での水素の核融合は停止し、しばらくほぼ一定の明るさで輝く「クランプ星」と呼ばれる段階に入る。クランプ星は中心部のヘリウムが核融合の進行によって枯渇するとその周辺での核融合を起こす段階に移行し、再び明るさを増す。そして恒星表面からの物質流出が始まり、恒星の進化の最終段階へと進んでいく。

恒星の進化と内部構造の概念図
恒星の進化と内部構造の概念図(提供:Wako Aoki (NAOJ))

赤色巨星の段階に入ると恒星の表面付近では対流が活発になり、内部の物質と表面物質がよく混ざった状態となる。水素、ヘリウムに次いで軽い元素であるリチウムは、高温となる恒星内部では別の元素に変換されてしまうため、対流の活発な赤色巨星では表面でもリチウムの量が少なくなることが知られている。

ところが、リチウムの量が予想よりも何桁も多くなっている赤色巨星が見つかっており、大きな謎となっている。このようなリチウム過剰星は赤色巨星の中で1%程度存在していると見積もられている。

最近の観測で、この異常なリチウムの増加を示すのはクランプ星であることを示唆する結果が得られ、リチウム過剰星の謎解明の手がかりになると考えられるようになってきた。しかし、中心部周辺で水素が核融合を起こしている赤色巨星と中心部でヘリウムが核融合を起こしているクランプ星は、内部構造は大きく異なるにもかかわらず、似たような温度と明るさである場合が多いため、見かけでの区別が難しく、断定することができなかった。

中国国家天文台のHong-Liang Yanさんたちの研究チームは、中国の分光探査望遠鏡「LAMOST」の観測でリチウムの多い赤色巨星を多数発見し、そのうち134天体について、NASAの系外惑星探査衛星「ケプラー」のデータに基づいた星震学の手法によって恒星の表面組成と内部構造を測定した。恒星の表面の振動は明るさの周期変動に現れるため、恒星の表面の振動を測定して内部構造を調べる星震学では赤色巨星とクランプ星とを区別することができる。ケプラーでは恒星の明るさが長期間にわたって精度よく測定されていることから、多くの恒星に星震学を適用することができた。

LAMOSTとすばる望遠鏡によるリチウムのスペクトル線のデータ
LAMOST(左)、すばる望遠鏡(右)によるリチウムのスペクトル線のデータ。それぞれの図でリチウム過剰な恒星(下側の濃い青線) と普通の恒星(上側の水色線)とを比較しており、リチウム過剰星では明瞭にスペクトル線が検出されている。LAMOSTでは多数の恒星を効率よく観測することができる一方、すばる望遠鏡では波長を細かく分けて測定できるため、より正確にリチウムの量を測定し、LAMOSTの結果を検証できる。画像クリックで拡大表示(提供:H. L. Yan (NOAC))

研究の結果、リチウムの著しい過剰を示す多くの星はクランプ星であることが初めて明瞭に示された。また、リチウム組成が極端に高い恒星は赤色巨星における進化段階で特に集中的に現れることがわかった。

恒星の明るさとリチウムの量の関係
恒星の明るさとリチウムの量の関係。横軸は星表面の重力の強さで、星の明るさに対応する(明るい恒星ほど表面重力が小さい)。星印は、すばる望遠鏡で観測されたリチウム過剰な恒星(26天体)。 クランプ星(赤印)がリチウム過剰星の多くを占めており、赤色巨星(青印)に比べて、よりリチウム量の多い星が見られる。また、過去の研究で調べられた恒星(灰色の丸印)の多くに比べて3桁程度リチウム量が多いことがわかる。すばる望遠鏡で観測したのは、あらかじめLAMOSTによりリチウム量が多いと推定された恒星であり、それが高精度の測定で裏付けられた(提供:Yan et al.)

赤色巨星におけるリチウムの異常な増加は、恒星の構造や進化を理解するうえで基本的な問題が依然として残されていることを示すものだ。リチウム増加のメカニズムは未解明ではあるが、今回の成果は恒星進化の研究に残された謎の解明に向け有力な手がかりとなるだろう。