銀河中心から移動する超大質量ブラックホール
【2017年5月15日 Chandra X-ray Observatory】
太陽の数十万倍から数十億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールは、一般的には銀河の中心に存在すると考えられている。しかし、おおぐま座の方向39億光年彼方の楕円銀河に存在する、太陽の1億6000万倍の質量を持つ超大質量ブラックホールは、銀河の中心から移動しているかもしれない。
米・国立電波天文台のD.-C. Kimさんたちの研究チームは、NASAのX線天文衛星「チャンドラ」の観測データから、急速に成長中の超大質量ブラックホールの兆候と考えられる明るいX線源を探した。次にその天体のうち、ハッブル宇宙望遠鏡の可視光線観測で銀河の中心近くに2つのピークがあるものを選び出した。可視光線の2つのピークは「銀河に超大質量ブラックホールのペアが存在する」か「銀河中心の星の集団からブラックホールが移動した」ことを示していると考えられる。
さらに、スペクトルの分析や天体の速度の観測から、X線源「CXO J101527.2+625911」が銀河の中心から3000光年離れたところに存在する超大質量ブラックホールらしいことが確かめられた。ただし、可視光線で明るい2つのピークは両方とも超大質量ブラックホールのものだが、一方は成長が遅いためにX線が検出できない(そのためX線では1つしか見えない)という可能性もあり、さらに詳しい観測が必要とされている。
超大質量ブラックホールが銀河の中心から移動した原因は、ブラックホール同士の衝突だと考えられる。ブラックホール同士が衝突、合体して、より大きなブラックホールができるとき、衝突で重力波が発生する。重力波はある方向に強く放射されるので、その反動で合体後のブラックホールが飛ばされるのだ。
銀河の外縁部には乱れた構造が見られるが、これは2つの銀河が天文学的な時間スケールで比較的最近衝突したことを示唆しており、その際にそれぞれの銀河の中心にあったブラックホールが衝突したと考えられる。また、銀河の星形成率は1年間に太陽質量の数百個分と高く、反動ブラックホールを含む合体銀河の星形成率はとくに高まるというコンピュータ・シミュレーションの予測とも一致する。
反動ブラックホールを蹴飛ばした重力波キックの強さは、合体前の2つのブラックホールの回転速度と方向に依存する。つまり、通常ではわかりにくい回転速度とその方向という重要な情報が、反動ブラックホールの速度を調べることでわかる。
〈参照〉
- Chandra X-ray Observatory CXO J101527.2+625911: Astronomers Pursue Renegade Supermassive Black Hole
- The Asrophysical Journal: A Potential Recoiling Supermassive Black Hole CXO J101527.2+625911 論文
〈関連リンク〉
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