今年の夏は天候不順で、思い通りの天体観測や天体撮影ができなかったという人も多いのでは。そんなときは、雨音を聞きながら『星ナビ』を読んだり、専門書で勉強したりする機会と考え、静かにページをめくるのはいかが。
まずは、大学生レベルの教科書を2冊。『太陽系と惑星[第2版]』は、日本天文学会創立100周年記念事業として2006年に刊行した「シリーズ 現代の天文学」の第9巻。第1版が2008年に出てから13年経ち、進展した研究成果に基づき改訂された第2版。惑星には新たな探査機が次々に到達し、地球の数倍程度の系外惑星「スーパーアース」が多数発見され、アルマ望遠鏡は原始惑星系円盤の構造を次々にとらえた。あらためて、科学(天文学)の加速度的進歩を感じる。
『銀河団』は「新天文学ライブラリー」の第7巻。前書が天文学の基礎事項を網羅した概論的教科書だとすると、こちらは各テーマを補完するべく一人の著者が細かく解説した専門書。北山哲氏はアルマ望遠鏡で銀河団のSZ効果の高解像度測定に成功したチームのリーダー。彼は「銀河団は宇宙論と天体物理学の交差点に位置する」という。また「観測データが豊富で物理法則と結びつけやすいことから、天然の“実験場”である」とも。宇宙進化を読み解くホットな分野について、素過程から系統的に解説した一冊。
『地球・惑星・生命』は大学生や研究者だけでなく、表題のジャンルに関心を持つ高校生や社会人にお勧めしたい読み物。ざっくり言うと、『ブラタモリ』の好きな天文ファンが興味を持つ話題が詰まっている。日本地球惑星科学連合が30周年を記念して2020年に刊行。地球を取り巻く宇宙・生命・進化・気象・地震・環境・水など同会ニュースレターで取り上げてきたトピックスから21本を選び、各分野の専門家が図解を交えながら紹介する。その根源には「私たちはどこから来たのか」という永遠の疑問と、「このままの地球で持続可能なのか」という未来への課題がある。
『宮沢賢治と学ぶ宇宙と地球の科学』は、2020年10月号当コーナーで紹介した『宮沢賢治の地学読本』シリーズを発展させて、高校地学のレベルで「宇宙と天体」「地球の活動」「岩石と鉱物」「地層と地史」「気象と海洋」について解説した参考書。賢治作品を引用することでファンはもちろん、文系読者も楽しく読み進められる。また、賢治作品を地学的に読み解く手引書でもある。どの巻も科学的にわかりやすく説明するだけでなく、自然災害や環境変化など現代生活に欠かせない視点を教えてくれる。あらためて、賢治にとっても私たちにとっても“地学は生活の一部”だと感じさせられる。ぜひ、箱入りの5巻セットでそろえたい。
出版社担当者は「3年がかりの企画で大変なことも多かったが、読者にとって楽しく実用的なものになるよう心がけた」という。賢治文学特有の“科学に基づいているようで実は大幅にファンタジーを混ぜ込んでいる表現”について注意を払ったり、賢治の時代には発展途上だった学術的知見をフォローしたりと、作品世界を尊重しながら最新情報の内容に整えたとのこと。「この本で『青空いっぱいの無色な孔雀』や『透明な人類の巨大な足跡』を空想できるような地学の可能性を伝えたい」とコメントをいただいた。
(紹介:原智子)