Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2022年1月号掲載
星空を見上げ宇宙を駆ける

昔から宇宙や星空をモチーフにした物語は様々あるが、その中でも代表的なジャンルといえばSFだろう。近年のSF小説の中で、テーマもボリュームも壮大なのが『三体』だ。2020年8月号の当コーナーで紹介した「I」「II 黒暗森林」に続く、完結編となる『三体III 死神永生』が発刊された。今作では新たな主人公が登場し、大スペクタクルの鍵を握る。訳者によると、題名の「死神永生(ししんえいせい)」は登場人物のセリフ「死だけが永遠だ」の原文だという。英語版では「Death's End(死の終わり)」だから、漢字の使える日本ならではの題名だ。天文ファン的にはブラックホールに関する数字など引っかかるかもしれないが、それを差し引いても有り余るほどドラマチックな展開に大興奮する。

『星になりたかった君と』2021年2月号の記事で著者自身がこの本を紹介しているので、タイトルや書影を覚えている人も多いだろう。そこに書かれていたように著者は天文少年として科学館に通っていたので、作中に登場する天文環境がとてもリアル。最後まで心地よくてピュアな青春小説。

一方『ダブル・ダブルスター』は母親が主人公で、家族のあり方を考えさせられる小説。個人的には“現代版・向田邦子作品”のような親子の心情の機微を感じる。作中に国立天文台野辺山宇宙電波観測所が登場し、財政難の状況にもふれている。そしてダブル・ダブルスターは、もちろん「こと座ε星」。当誌読者ならきっと、すぐにイメージできる二重星だ。世の中には多重に包括されているものがいろいろあり、人生も宇宙もフラクタル構造だ。

『短編宇宙』は、7人の作家が宇宙をテーマに書いたアンソロジー。心温まるホームドラマ、前衛的なSF、胸キュンの青春物語、少女に操られる殺し屋など、テイストもジャンルも様々な作品が詰まっている。最終話の「小さな家と生きものの木」は、コロナ禍でリモートワークをする天文学者と幼い娘の暮らしのひとコマ。新型コロナが落ち着いた数年後にもう一度読んだら、「そんな生活をしていたなあ」と懐かしく思うだろう。

『一等星の恋』は、表題作品を含む7つの作品を一人の作家が書いた短編集。恋とはたしかに「誰かの一等星になる」ことだろう。そう考えると、世の人々が綺羅星のように見えてくる。そのうえでふと、筆者が子供のころに読んだ『ブラック・ジャック』の「六等星」を思い出した。暗くてかすかにしか見えない6等星だが、遠くにあるだけで本当は1等星より大きくて明るく輝く存在かもしれない。いずれにしても、有名無名様々な人間が地上で暮らす様子は、明るさも距離も様々な星空にたとえたくなるのだろう。

『レグルスと爪』はラグビー・スクールに通う小学生たちの物語。幼いからこそ純粋で、なかなか簡単に許せない心が切ない。読んだ人はきっと「日暮れまで外で遊び、一番星を見ながら家路についた」そんな情景を思い出すかもしれない。作中に登場する星空は、想定された日の実際の並びになっている。また、著者自身によるカラー挿絵も、物語を温かくしている。

最後は、科学絵本シリーズの『冬の宇宙(そら)への旅』2020年9月号の当コーナーで紹介した「夏の大三角形のひみつ」に続く、児童・幼児向けの星空案内本。今回はオリオン座を旅しながら、いろいろな星雲や星団を紹介する冒険物語。最終ページには、オリオン座の星の距離の違いがわかるように「立体オリオン座クラフト」が付いている。ぜひ親子で厚紙にコピーして組み立てて、宇宙空間を三次元で想像してほしい。

(紹介:原智子)