第41回 リアルとは何か
(星ナビ2008年6月号に掲載)
プラネタリウムのリアルさの追求について思うところを述べます。
本物の星空とイコールであることが正しいのか
最近、プラネタリウムのリアルさということについてよく考える。
プラネタリウムの目指す方向が、より本物の星空に近い、リアルな星空を再現するということはもちろんだ。けれどリアルな星空とは何だろう、と突き詰めて考えると、これがなかなか難しい。
リアルさの追求を放棄したように聞こえるかもしれないがそうではない。本物の星空の姿を伝えることがプラネタリウムの命題であることはもちろんだ。その考えのもと、僕もメガスターを創りあげた。では、本物の星空と完璧にイコールであることが正しいのか、ということだ。
象徴的な例を示したい。例えば星の明るさの設定ひとつとってもそうである。メガスター開発当初、天文学的正しさを追求することに集中し、1等星と11等星の光度比を、ポグソンの法則(1等級で約2.5倍の光度比)通りに作った。光度比を測ると、正しい。なのに何かおかしい。背景が、夜空が明るすぎるのである。
そこから様々な試行錯誤があって、今の光度比にたどりついた。ドームに再現すべき1等星の明るさは、本物と同じ明るさでは暗すぎる。それにはいくつかの理由がある。ドームの大きさが有限であって、観客の座る位置がまちまちであること、昼間の上映では、観客の目が完全に暗闇に順応しきれないこと。こうした理論だけでは計れない現実的な要因により、計算上よりも明るい星像が、観客の目には最も本物の星に近いと映るのである。ところが上映が始まり、ひとたび暗闇に目が慣れた観客の目には、今度はだんだん背景が明るく感じられてくるのだ。
リアルはひとつではない
こうして学んだことは、数字だけではリアルだと感じさせる星空を作るには不十分だということだ。テレビでも映画でも、映像ならばおそらく共通していることだと思うが、見る人間の感覚というフィードバックなしには、本物のディテールを描き出すことはできないらしい。
ここはさらに研究を要する分野である。よりリアルな星空を再現したいと、プラネタリウム作りを手がける者なら誰もが願っている。しかし本物の星空を地上に作り出すことができない以上、どの側面を切り出すかによって答えは異なる。何を伝えたいのか?何を表現したいのか?どこがリアルなのか、ではなく、本物のどの側面を切り取り、どこが本物と違うのか?そこに作り手の意志が表れるし、目的が活きてくる。値打ちが出る。重要なのは何をしたいのか、ということ。目的次第で答えは様々なのだ。考えた末に今の僕が出した結論。
「本物と同じ星空を作りだすプラネタリウムなんて存在しえないし、意味もない。本物と違うからこそ意味がある」