恒星間航行は可能?
【2000年4月12日 NASA Space Science News (2000/4/11)】
現在の技術でも、惑星間航行はすでに可能であり、火星への有人飛行は実際の計画段階にある。現行の化学反応を利用したロケットでも450日で火星への往復航行が可能であるし、核分裂エンジンが実現すれば必要な期間は2分の1〜3分の1になる。
だが、恒星は遠い。現行の化学ロケットでは、木星への往復航行には少なくとも3年を要する。3年という期間は非現実的だが、核分裂ロケットなら1.5年〜1年程度で可能であり、現実的となる。しかし、われわれの太陽系の外延である冥王星は木星よりも10倍も遠く、核分裂エンジンを用いても往復航行は難しい。しかも、我々の太陽系から最も近い恒星までは、地球〜冥王星間の10,000倍以上も遠いのだ。
核分裂エンジンと、十分な消費物資を搭載した宇宙船を用いても、もっとも近くの恒星への恒星間航行は何世代にもわたる旅が必要となる。たとえ現在可能性が見えつつある核融合エンジンや反物質エンジンが実現されても、期間は10分の1〜300分の1に短縮できるに過ぎず、まだ数世代を要する。
では、恒星間航行は可能なのか? 現状では、そんなものはSF、想像の世界の話に過ぎないと言わざるを得ない。だが、ヒントは存在する。人間の一生という短い期間の中での恒星間航行は可能かもしれないということを示唆する理論は存在するのだ。そして、高名な科学者たちがすでに、世界の基本法則に対する問いかけをはじめている。この科学研究の新たな取り組みは、NASAのマーシャル宇宙飛行センターの先端宇宙輸送計画(Advanced Space Transportation Program; ASTP)において進んでいる。その一部が、革新的推進物理計画(NASA Breakthrough Propulsion Physics Project; BPPP)と呼ばれるものだ。このBPPPはグレン研究センター(Glenn Research Center)のMarc Millis氏を代表としており、様々な科学者に推進物理に革新をもたらすかも知れない研究への取り組みの場を与えている。
「我々の計画は3つの挑戦を含む。」Millis氏は語る。「まず第1に、我々は推進における推進剤の必要性を完全に無くすか、または大幅に減らすことを目指す。今日のすべての宇宙船は、背後に質量放出を行う反作用で前方への推力を得ている。これの方式は大きなペナルティを持つ。なぜなら、宇宙船自体の重量を加速するだけではなく、宇宙船に搭載された残存推進剤の重量を加速する必要があるからだ。我々は、他の方法で宇宙船の推力を得る方法を探そうとしている。」
「第2に、我々は宇宙航行に必要な時間を大幅に短縮するため、究極的に可能な最大の速度を達成するための方法を見つけることを目指す。これは、それが理論的に可能であることがわかれば超光速航行の実現さえも含む。亜光速航行でさえ、人間は、銀河中を飛び回ることはできない。人間の一生は短いのだ。そして第3に、我々は我々が目指す推進力を作り出すのに必要な根本的に新しい方法の発見を目指す。我々にはこのためにエネルギー交換の物理の理解が必要だ。」
BPPPは1996年に公式に始まっている。だが、それは小規模なものに過ぎず、本格的な研究としてスタートするための資金が得られたのは1999年になってからだ。そして今、その第1段階が進みつつある。やがて有意な進歩が得られ、さらなる研究が行われ、そして更なる結果が得られるだろう。「我々は今、月から持ちかえった石を地球上に持っている。だがたった40年前、これはSFでしかなかったのだ。」Millis氏は強調した。
「新たな知識がすぐそこにあって発見されるのを待っていることを、誰が知っているだろう? 私は進化――そう、一時はSFに過ぎなかったものを現実へと変えるような進化――がみつかる部屋があちこちにたくさんあるのだと個人的に信じている。我々が始めたことは単純で、正しい問いかけを持つことである。」
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