「はやぶさ」との交信が復活
【2006年3月8日 宇宙科学研究本部 宇宙ニュース】
小惑星探査機「はやぶさ」は、昨年11月に小惑星イトカワから離陸後、燃料漏洩の発生やエンジン機能が復旧できない状態が続き、12月8日には燃料等のガス噴出によると思われる原因で姿勢喪失していた。しかし、その後、姿勢変更制御など救出運用の結果、3月4日には中利得アンテナによるデータが取得され、その二日後の6日には、3ヶ月間ぶりに正確な探査機の位置・速度が推定されるに至り、宇宙航空開発機構では、「はやぶさ」と地上局との交信が復活したことを発表した。
【復旧の経緯】
昨年12月8日以降姿勢を喪失した「はやぶさ」とは、交信が途絶えた状態となり、以後の1年間の間に60〜70パーセントという電力と通信の復活確率のもと、探査機の追跡を行いながら、救出運用が行われてきた。
「はやぶさ」の姿勢喪失に関する推定では、12月8日に加わった外乱により、2006年1月23日には約90度ほども姿勢が変化したと考えられている。同日の「はやぶさ」からの電波によって、地球方向から約70度離れた方向を軸にスピンした状態で発見されたと考えられている。また、12月8日の姿勢喪失時には正方向に毎秒1度の角速度でスピンしていたが、発見時には、逆方向に毎秒7度の角速度でスピンした状態にあり、かなり大きな外乱を受けたと推定されている。
当初、探査機への指令(コマンド)は非常に通りづらい状況にあったが、間欠的な指令を繰り返すなどの工夫で、1月26日からは、探査機の自律診断機能が、地上管制センターからの質問に、送信周波数を変えて逐次回答するようになり、探査機の状態がわずかずつながら明らかになっていった。
その後得られた情報を総合すると、「はやぶさ」は、12月8日の姿勢喪失後、太陽電池発生電力が極端に低下、いったん電源が完全に落ちたようだ。搭載のリチウムイオンバッテリも放電しきった状態にあり、かつバッテリの中の一部のセルは準短絡状態となっていて、現在は使用不能の状態と考えられている。また、化学エンジンについては、すでに12月上旬には燃料をほぼ全量喪失した状態にあったが、この間にさらに、酸化剤も新たに漏洩し、残量が全くない状態にあるようだ。イオンエンジン運転用のキセノンガスは、12月に通信が不通に陥った時点の状態の圧力を保っており、残量は、約42〜44kgと推定されている。
地球への指向制御ができない場合には、ごく短期間で再度交信ができなくなる可能性もあったため、イオンエンジン駆動用のキセノンガスを用いて太陽方向(地球方向に近い)への姿勢変更制御を実施することとなった。2月6日には地上からの新たな姿勢制御プログラムの書き込みを行い、1日に2度ほどの速さで太陽方向に探査機のアンテナ方向を向かせるべく姿勢変更の運用を行ってきた結果、3月4日には太陽と探査機のアンテナ軸の角度が14度にまで縮小するに至った。(参照:「太陽角と地球角の姿勢変更履歴」の図)
その結果、「はやぶさ」と地上局間の通信状況は徐々に改善。2月25日には低利得アンテナを介して8bpsの速度ではありながらもテレメトリデータが復調され、3月1日には距離計測が実施できた。また、3月4日には、中利得アンテナにて、32bpsの速度でテレメトリデータが取得されるまでに好転。3月6日には、得られた距離計測データとドップラ情報をもとに、「はやぶさ」探査機の軌道が決定でき、正確な探査機の位置・速度が3ヶ月ぶりに推定できたのだ。
「はやぶさ」は現在、イトカワから(概ねイトカワの進行方向に)約1万3千kmの距離にあり、相対速度毎秒約3mで飛行している。また、現在の探査機の太陽からの距離は約1億9千万km、地球からの距離は約3億3千万kmとなっている。
【「はやぶさ」の今後の復旧計画 】
探査機内には、相当量の燃料ないし酸化剤が残留している可能性があり、軌道を確定して、異常状況への対策をもり込んだ探査機の姿勢制御ロジックの更新を終えたのち、ヒータを用いて探査機全体の温度を上昇させる「ベーキング」を実施する予定になっている。
このベーキングにより、新たな燃料や酸化剤ガスの噴出が生ずるリスクがあり、最悪の場合には、再度の姿勢喪失などもありうるため、慎重に作業が進められる。
1〜2ヶ月間は続いて、回収カプセルのベーキングを実施し、回収カプセル内に試料容器を移送して蓋を閉めることが計画されている。また、探査機内の温度を最も高くしうる、イオンエンジン運転状態での第2段階のベーキングを実施する予定で、イオンエンジンを1台ずつ起動させていき、最大3台同時運転の状態まで運用を行う計画だ。宇宙航空開発機構では、今年の後半から来年初めの数ヶ月間に、イオンエンジン運転の本格稼働を開始したいと考えている。
なお、探査機搭載のイオンエンジンや3軸姿勢制御のためのスタートラッカ、姿勢軌道制御コンピュータなどは、探査機全体の電源が一旦落ちたため、非常に低温の状態におかれたと推定されており、その機能が保たれているか懸念されている。現時点では、これらの機器の動作は確認にいたっていない。