すばる望遠鏡が初めて明かした塵円盤
【2006年4月21日 すばる望遠鏡 / 国立天文台 アストロ・トピックス(206)】
国立天文台、名古屋大学、北海道大学の研究者からなる研究チームは、すばる望遠鏡と波面補償光学・赤外線コロナグラフ・偏光という3つの技術を合わせた他に例を見ない観測により、がか座ベータ(β)星の塵円盤から反射される赤外線の偏りを世界で初めて検出した。この結果、円盤の塵は通常の星間空間のものより1桁以上も大きい氷の粒子(ミクロンサイズ)で、いわば微小な「雪だるま」であること、さらに円盤内に小惑星同士が衝突している小惑星帯の存在証拠も示された。
国立天文台、名古屋大学、北海道大学の研究者からなる研究チームがすばる望遠鏡を使って観測したのは、われわれから60光年と比較的近い距離にある南天のがか座にあるベータ(β)星の塵円盤。通常、恒星や惑星は、原始惑星系円盤から生まれ、この円盤は恒星の成長と共に消失してしまう。しかし、いくつかの恒星の周りには多量の塵がつくる円盤が残っており、残骸円盤とも呼ばれている。残骸とは言うものの、微惑星や彗星に成長した小天体が衝突してできたものと考えられている。その代表ともいえるのが、今回観測されたがか座ベータ(β)星の塵円盤だ。
この塵円盤の可視偏光観測例は過去に2つあるが、いずれも大気のゆらぎ補正のないデータであったため解像度が悪く、塵円盤の詳細を明らかにするには至らなかった。研究チームでは、円盤内の塵が、太陽の約2倍の質量を持つ中心星からの明るい光を反射し、輝いて見えている姿と考えられていることから、光の偏りを調べることで、反射光の性質や塵の性質に直接に迫る観測を行った。その観測方法は世界初の試みといえるもので、すばる8.2メートル望遠鏡に搭載されている「波面補償光学装置 AO」、「コロナグラフ撮像装置 CIAO(チャオ)」、および「偏光装置」という、3つの観測技術を組み合わせたもの。過去2例の観測と比較すると、その解像度は、一桁も高い約0.2秒角となっている。補償光学とは、大気の揺らぎを時々刻々と補正し、すばる望遠鏡の能力いっぱいの解像度を引出す装置。コロナグラフは、波長2マイクロメートルで3.5等という非常に明るい中心星からの光をさえぎり、その近くの暗い円盤からの光を見やすくする装置。偏光装置は、円盤からの偏った反射光を測ることができるものだ。
その観測結果から、円盤中の塵について新たな知見がもたらされた。まず、円盤からの近赤外線は約10パーセントの偏光を示していることが明らかにされ、円盤が中心の星からの赤外線を反射して輝いていることが直接確認された。がか座ベータ(β)星の赤外線偏光観測自体が初の試みであったことも特筆すべきだ。また、中心星の赤外線を反射しているのであれば、その偏光データは、塵の分布はもちろん、塵自体がいったい何であるかを突き止めるのに役立つ。研究チームでは、モデルを立て、この円盤の塵が通常の星間空間の塵よりも1桁以上大きい微小な雪の塊、いわば「雪だるま」であることが説明可能であると立証した。
また、円盤の近赤外線の明るさの変化は、中心から外に向かって単調に減少するのではなく、波をうって減っていくことも明らかにされた。このことは、塵の円盤の密度が場所によって異なることを示している。とくに、濃い場所は、小天体同士が衝突している小惑星帯に対応すると考えられる。実際、すばる望遠鏡は、円盤の内側の部分で、小惑星帯の存在を確認している。
これらの観測成果は、塵の特性と微惑星の分布に新たな知見を持たらすものとなった。今後同チームでは、他の8〜10メートルクラスの望遠鏡でもまだ行われていない赤外線によるさまざまな円盤の偏光観測を続けていく意向だ。それらの観測によって、原始惑星系円盤の塵が、どこでどのようにして惑星へと成長するのかが解明されれば、われわれのような生命の起源にもつながる重要な情報がもたらされることになるだろう。
(なお、この研究結果は、2006年4月20日号のアストロフィジカルジャーナル誌に掲載されました。)