【特集・太陽系再編】(4)守られるか、冥王星の地位(後編)

【2006年8月23日 アストロアーツ】

"Pluton"問題

(ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した冥王星)

ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した冥王星の実際の写真(左上)と画像処理で得られた高解像度の「地図」。クリックで拡大(提供:Alan Stern (Southwest Research Institute), Marc Buie (Lowell Observatory), NASA and ESA )

16日に国際天文学連合(IAU)が示した原案には、惑星の定義とともに、次のような提案もありました。

「冥王星や、最近発見された1つまたは複数のトランス・ネプチュニアン天体(注1)は、上記(注2)の定義から、惑星である。Classical Planets(注3)と対比して、これらは典型的に大きく傾いた軌道傾斜と歪んだ楕円軌道を持ち、軌道周期は200年を超えている。われわれは、冥王星が典型例となるこれらの天体群を、新しいカテゴリーとして、Plutonsと呼ぶ。」(国立天文台 アストロ・トピックス 230

  • 注1:「トランス・ネプチュニアン天体」は「エッジワース・カイパーベルト天体(EKBO)」を含む海王星よりも遠い天体
  • 注2:(a)十分な質量を持つために自己重力が固体としての力よりも勝る結果、重力平衡(ほとんど球状)の形を持ち、(b)恒星の周りを回る天体で、恒星でも、また衛星でもないもの
  • 注3:1900年以前に発見された水金地火木土天海の8惑星

16日の原案通りに採択が行われれば、これまでに見つかった大型のEKBOは最終的にほぼすべて「惑星」と認められることになります。そこで、Pluto(冥王星)を含めた「EKBOであり惑星である」ような天体を「Plutons(冥王星型惑星)」と呼ぼうというわけです。

これまで、太陽系の惑星は太陽に近い軌道を回り岩石からなる「Terrestrials(地球型惑星)」と、その外側を回りガスからなる巨大な「Jovians(木星型惑星)」に分けられてきました。水星・金星・地球・火星が地球型惑星、木星・土星・天王星・海王星が木星型惑星です。9つの惑星のうち冥王星だけがどっちつかずでした。太陽からの平均距離は1番外側であり、固体でできているといっても主成分が氷なので、地球型惑星には分類できません。いうまでもなく、巨大なガス惑星から遠くかけ離れているので、木星型惑星でもありません。

「地球型惑星」「木星型惑星」という用語はIAUで正式に認められた用語ではありませんが、それぞれの惑星の性質を議論するときにとても便利です。とりわけ太陽系の成り立ちを考えるとき、熱い太陽の近くにあって岩石しか残らなかった地球型惑星と、外側にあったおかげで岩石に加えて氷とガスを蓄えることができた木星型惑星と対比するとわかりやすくなります。

「冥王星型惑星」という言葉があれば、木星型惑星のさらに外側に、別の形成過程を経た天体があることが強調されます。冥王星型惑星の公転軌道は普通の円形からは大きくゆがんだ楕円軌道で、軌道が通る面は地球型や木星型惑星の軌道面と比べて、大きく傾いています。こうした特徴も、地球型惑星や木星型惑星とは違った起源を示唆しています。

これまでにも紹介したように、「冥王星型惑星」という分類が作られたとすると、地球型惑星や木星型惑星に比べてひじょうに数が多くなります。また、大きさが小さいことから、地球型惑星・木星型惑星ほど「重要な惑星だという印象」はなくなるでしょう。しかし、そんな中にあっても冥王星は「冥王星型惑星」の発見第一号であり、代表的な存在として認知され続けるはずです。

IAUで「冥王星型惑星」という言葉が提案された背景には、以上のような考えがあると思われます。しかし、猛反発を食らう結果となってしまいました。

問題視されたのは、"Pluton"という英単語です。ある言語では"Pluton"という単語は冥王星そのものを指しています。また、EKBOの分類の中に、"Plutino"(プルチーノ、冥王星に似た軌道を通るEKBO)という用語があるのも紛らわしいといえます。

「すでに"Pluton"という地質用語が存在する」という意見が大きく取り上げられていますが、提案側からは「"Mercury"(水星)だって"mercury"(水銀)と紛らわしいではないか、"Mercuryでmercuryが見つかった"というニュースが流れてもおかしくない」という反論があります。しかし、そもそも用語が紛らわしいかどうかというところに本質的な問題があるのでしょうか。

「冥王星型惑星」という用語で、「地球型惑星」「木星型惑星」との起源の違いを明確にするのは一理あります。しかし、他の惑星以上に、小さいEKBOとの違いが強調されはしないでしょうか。「丸くなるくらい大きいEKBOと小さいEKBOは起源が違う」という論文はほとんど見あたりませんし、そんなことに根拠はないでしょう。やはり、冥王星や2003 UB313といった天体は、「冥王星型惑星」である以前にEKBOだと説明されるのが一番すっきりします。

残されるもの

これまで4回にわたり「惑星の新定義」について考えてきましたが、もっとも重要なのが「冥王星をはじめとしたEKBOをどう扱うか」ということは確かです。

さて、回を重ねる間にIAUにおける議論も進み、最終的に「冥王星を惑星から外し、太陽系の惑星を8つとする」という修正案でまとまりそうだといわれています。増えると思われた惑星が、逆に減ってしまうかもしれないのです。

しかし、惑星の数が減っても、私たちが太陽系について知るべき事が減るわけではありません。冥王星とカロンと2003 UB313を含むEKBOや、セレスをはじめとした小惑星(Asteroid)は、8つの惑星と同じだけ私たちに教えてくれることがあります。惑星の衛星たちや、彗星の存在も忘れてはいけません。そして、高性能の探査機や精力的に活動する観測家たちの活躍によって、太陽系に所属する天体は日々増えています。

太陽系の外に目を向けても、惑星になりきれない、あるいは惑星になろうとしている無数の粒子が恒星の周りをとりまいている例が見つかっています。惑星でなければ、観測する意味はないのでしょうか?いいえ、「惑星になっていない」ということが、天文学者に多くのことを教えてくれるのです。

惑星が増えても減っても、惑星ではない天体への注目が集まったのならば、IAUにおける議論と結論は、大いに意味があったと言えるでしょう。

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※この特集は、IAUが発表した文書を元にした解説です。「惑星の定義」はまだ原案であり、24日に行われる採決の際は変更されている可能性があります。また、新しく提案された用語には正式な日本語訳が存在せず、本文中の日本語訳はアストロアーツニュース編集部が直訳したものである点にご注意ください。

※本特集の内容は、IAUの最終決定とあわせて星ナビ10月号(9月5日発売)にまとめられる予定です。