散開星団から初めての系外惑星、国内で発見
―年齢までわかる貴重な観測

【2007年3月29日 アストロアーツ】

岡山天体物理観測所の望遠鏡を用いた国立天文台などの研究グループが、世界で初めて、散開星団の中から太陽系外惑星を見つけた。散開星団に所属する恒星については年齢などの情報がかなり詳しく求められる。惑星の起源や進化を考える上で貴重な発見となりそうだ。


(ε Tauの想像図)

ε Tauと惑星の想像図。ε Tauは太陽の3倍の質量を持ち、すでに老齢期に達して膨張をはじめている。惑星は、木星の8倍の質量を持つガス天体と見られる(提供:武田隆顕氏(国立天文台))

(ε Tau周辺の星図)

ε Tau周辺の星図。ε Tau以外に観測対象となった3つの恒星も記した。なお、1等星アルデバランは方向が同じだけで、ヒヤデス星団の恒星ではない。クリックで拡大(ステラナビゲータ Ver.8で作成)

(太陽系とε Tau系の比較)

太陽系とε Tau惑星系の比較。恒星と惑星の大きさの関係は無視している。クリックで拡大(提供:国立天文台岡山天体物理観測所)

国立天文台、神戸大学、東海大学、東京工業大学などの研究グループは、岡山天体物理観測所188センチメートル望遠鏡を用いて系外惑星探しに挑んでいる。2003年には国内初となる系外惑星発見を達成していて、今回が2個目の発見だ。この成果は、日本天文学会2007年春季年会に先立つ3月27日に発表された。

太陽以外の恒星の周りでは、すでに200個以上の惑星が見つかっている。しかし、そうした恒星の中に生まれや育ちがはっきりしたものはほとんどなかった。なぜなら、孤立した恒星(あるいは2, 3個の恒星からなる連星)だけを観測しても、その恒星の年齢などを精度良く求めることはできないからだ。

それに対し、今回惑星が検出された恒星「おうし座エプシロン(ε Tau)」は、おうし座の方向149光年の距離にある散開星団ヒヤデスに所属する。散開星団(解説参照)の恒星で惑星が見つかったのは初めてのケースだ。これはひじょうに意義深いことである。

散開星団は同時に同じ場所で誕生したと見なせる恒星の集団なので、どの星も年齢と成分が同じと考えられる。もちろん、われわれからの距離もほぼ同じなので明るさの比較もしやすい。ところで、一般に重い恒星ほど早く歳をとるので、散開星団に含まれる老齢期の恒星を調べ上げれば、統計的に散開星団全体の年齢が求まる。単独の恒星では困難だった年齢の算出が、散開星団に所属する恒星なら可能なのだ。

ヒヤデス星団の年齢はおよそ6億年で、ε Tauもほぼ同じだ。さらに、惑星は恒星の形成過程で同時期に誕生するので、ε Tauを回る惑星の年齢もおよそ6億年となる。これだけ年齢がはっきりしている惑星は、太陽系を除けばほとんど例がない。この点について研究チームの一人で東京工業大学大学院教授の井田茂氏は、「惑星の軌道進化を研究する上で重要」と指摘した。惑星は誕生してから同じ軌道を回り続けるのではなく、ときとして恒星からの距離が変化したり極端な楕円軌道に移ることがある。そのプロセスを調べるには今回のような発見が不可欠というわけだ。

研究チームは300を超える恒星を「ドップラー法」で調べてきた。系外惑星を直接観測することはできないが、惑星が公転することで生じる中心星の「ぶれ」は、波長のわずかな変化から検出できる。この捜索法が「ドップラー法」で、惑星の存在とともに公転周期と質量も求まる。ε Tauの惑星は木星の8倍の質量を持ち、恒星から2天文単位(1天文単位は地球から太陽までの距離)の距離を公転しているらしい。

興味深いのは、過去に別のグループがヒヤデス星団の恒星数百個を対象に惑星を探したときは何も見つからなかった点だ。実はこのグループが観測したのは太陽とほぼ同じ質量(1.5倍以下)の恒星だけで、今回の研究チームは太陽の1.5〜5倍と比較的重い星を対象にしていた(ヒヤデス星団の中では4個。なおε Tauの質量は太陽の約3倍)。同時に生まれた集団で重い恒星だけが惑星を持っていたのだとすれば、惑星形成のメカニズムについてヒントが得られるかもしれない。

さて、ヒヤデス星団はわれわれに一番近い散開星団だが、ほとんどの散開星団はその10倍以上離れている。研究チームの代表で岡山天体物理観測所研究員の佐藤文衛氏は、「すばる望遠鏡などによる散開星団の観測が実現すれば、惑星を持つ恒星がさらに見つかるかもしれません」と述べた。さまざまな年齢や性質の散開星団で系外惑星を発見することは、惑星の起源や進化をひもとくことにつながるはずで、今回の発見がその第一歩になると期待されている。

散開星団

銀河(天の川)に沿って多く見られる星団。分布の偏りから銀河星団と呼ばれていたこともある。平均的な散開星団は、数十〜数百個の星が直径20光年程度の空間に集まっているもの。年齢は若く数千万〜数億年のものが多いが、太陽年齢程度のものもある。生まれたての100万年以下のものもある。ディスク面の腕の部分に星間雲などとともに分布しており、これが銀河に沿って多く見られる原因である。星生成領域との関連も深い。プレアデス星団(M45)が有名である。

(「最新デジタル宇宙大百科」より抜粋)