観測史上最遠のクエーサー
【2007年6月11日 CFHQS Press Release】
カナダ・仏・米の研究グループが、われわれから約128億光年離れたクエーサー(赤方偏移Z=6.43)を発見した。クエーサーは超巨大ブラックホールの反応で輝いているとされる天体で、謎多き宇宙初期のようすに光を当ててくれる貴重な存在だ。
われわれがふだん目にしている星の光はせいぜい数千光年離れた恒星からのものなので、128億光年も離れた天体からの光を観測するのはひじょうに困難だ。研究チームはハワイにある口径3.6mのカナダ-フランス-ハワイ望遠鏡(CFHT)を使って超遠方のクエーサー(解説参照)を探している。CFHTには世界最大のピクセル数を誇る天体撮像用CCDカメラがあり、すでに1000万を超える天体のデータが蓄積しているという。
研究者たちは、まずこの中から赤外線で明るく輝く天体を探す。われわれから遠くにある天体ほど、宇宙膨張によって速く遠ざかっているので、光が「ドップラー効果」によって赤い方へずれているのだ。遠ざかる救急車の音が低く聞こえるのと同じで、どちらも波が伸ばされるのが原因。音波なら波長が長くなることで低く聞こえ、光(電磁波)なら赤く見える。ただし、あまりに遠い(遠ざかるスピードも速い)天体からの光は赤外線になるので、人間の目には見えない。
こうして、赤外線で輝く遠方クエーサー候補を発見すると、さらに大きな望遠鏡で詳しく調べる。今回見つかった天体「CFHQS J2329-0301」は南米チリにある口径8mのジェミニ南望遠鏡によって精密に観測された。
太陽のように核融合で輝く恒星も、何十億光年も離れていてはほとんど光が届かない。クエーサーの明るさはけた違いで、エネルギー源は太陽の何千万倍もの質量を持つ超巨大ブラックホールだ。ブラックホール自体は決して光を放たないが、ブラックホールに吸い寄せられた大量の物質が押し合うようにして加熱され、太陽の1兆倍にも匹敵するエネルギーが生み出されている。
宇宙は137億年前に誕生したというのが現代天文学の定説なので、CFHQS J2329-0301は宇宙がまだ9億歳だったころのクエーサーということになる。さらなる観測によって、CFHQS J2329-0301をとりまく環境はもちろん、CFHQS J2329-0301と128億光年離れたわれわれの間にある星間物質の性質も、影絵を見るようにして調べられるはずだ。
CFHTが見つけたクエーサー候補のうち、巨大望遠鏡による追観測が行われたのは半分程度。今後数年間で、CFHQS J2329-0301と同程度、もしくはさらに遠いクエーサーも見つかるだろうと関係者は期待している。
クエーサー
ひじょうに遠方にあって通常の銀河数十個分のエネルギーを放出していると考えられている「クエーサー」と呼ばれる天体がある。観測されているクエーサーはもっとも近くても8億光年かなたにある。正体は今もって謎だが、大質量ブラックホールをエネルギー源としているとする説が有力だ。(「150のQ&Aで解き明かす 宇宙のなぞ研究室」Q.92 クエーサーって何? より一部抜粋 [実際の紙面をご覧になれます])