銀河団の中に巨大な「壁」、X線画像で発見
【2007年6月19日 Chandra Press Room】
NASAのX線天文衛星チャンドラが、48億光年離れた銀河団を観測した。摂氏1億7000万度という超高温ガスが銀河団を満たしていて、その質量は太陽の1000兆倍にもなる。さらに、空前の高エネルギー現象が起こった証拠が、ガスの構造にあらわれていた。
チャンドラが観測したのは、はくちょう座の方向48億光年の距離にある、銀河「3C438」を中心とする銀河団だ。可視光では銀河がぽつぽつと分布しているだけにしか見えない銀河団だが、X線ではあたかも1つの天体のようにガスが集まっているようすが見える。3C438の銀河団でもそれは例外ではないが、ガスの広がり方に特異性がある。
X線画像の左下に注目すると、ガスの濃い領域が壁のように伸びている。その長さは200万光年、われわれの天の川銀河からアンドロメダ座大銀河(M31)までの距離とほぼ同じだ。これだけ巨大な「壁」を形成したのは、ひじょうに激しい現象だったにちがいない。
まず考えられるのは、銀河団どうしの衝突だ。銀河団は宇宙最大級の構造なので、それがお互いに衝突するのは宇宙最大級の高エネルギー現象と言える。このケースでは、衝突時のスピードは時速600万km以上になるという。1つ1つの銀河どうしは衝突しなかったとしても、銀河団を満たしていたガスはぶつかり合い、衝撃波によって「壁」が形成されうる。ただ、チャンドラのX線データからは決定的証拠は得られていない。
もう1つの可能性は、超巨大ブラックホールの活動だ。ブラックホールに飲み込まれる物質は一直線に落下するのではなく、回転しながら少しずつ近づき、押し合いへし合いして加熱されている。その結果、物質の一部は「ジェット」として外へ高速で放出される。
銀河3C438の中心核では実際に「ジェット」が確認されており、超巨大ブラックホールが存在しているとみられる。しかし、チャンドラが観測した巨大な「壁」を1個のブラックホールが形成したのだとすれば、太陽の300億倍に相当する質量のガスが2億年以上かけて飲み込まれ続けたという計算になる。これが事実だとすれば前代未聞の発見だが、さすがに無理がある、というのが多くの研究者の見方だ。