太陽系外の惑星で、水蒸気の存在が決定的に
【2007年7月18日 Spitzer News Room】
赤外線天文衛星スピッツァーが太陽系の外に存在する高温のガス惑星を観測した結果、大気中に水蒸気が含まれることがわかった。間接的な証拠から推定したのではなく、水の「指紋」をはっきりと見つけた初めてのケースだ。
スピッツァーによる観測が行われたのは、こぎつね座の方向63光年の距離にあるHD 189733bと呼ばれる系外惑星だ。質量は木星よりやや大きい程度で、表面温度は摂氏700度ほど、恒星から450万キロメートルの距離を2.2日の周期で回っている。
系外惑星に関する理論では、巨大なガス惑星の大気中には大量の水蒸気が含まれていることが示されていたが、明確な証拠が得られるにはいたっていなかった。水蒸気発見の研究を発表したのは、パリ天体物理研究所のGiovanna Tinetti氏らのチーム。Tinetti氏は、「遠く離れた惑星に水の存在を示す証拠を確認したときには、ぞくぞくしました」と話している。
系外惑星からの光のスペクトル(解説参照)を恒星から分離するには2つの方法がある。1つは、惑星が恒星の横にある状態と恒星の陰に隠れた状態をそれぞれ撮影し、前者から後者を引き算して惑星の光だけを得るという方法だ。今年の2月、スピッツァーは2つの系外惑星HD 209458bとHD 189733bを観測し、初めて大気のスペクトルを得たのだが、水蒸気は見つからなかった。この観測方法は、両惑星の大気に水蒸気を検出するには向いていなかったのだ。
もう1つの方法は、惑星が公転して恒星の前を通過する際に恒星の光が惑星の大気を通過することを利用するものだ。この方法を使ったハッブル宇宙望遠鏡(HST)による観測で、今年の4月に系外惑星HD 209458bに水の証拠が得られたとする研究成果が発表された。HSTによる観測結果が、水蒸気を含む大気のモデルに一致し、含まないモデルには一致しなかったのだ。
そこでTinetti氏らのチームは、水の分子による吸収スペクトルそのものを検出できる赤外線の目をもったスピッツァーを使い、HD 189733bの大気を通過した恒星の光を観測した。その結果、惑星の大気が2つの波長の赤外線を吸収していることを発見したのである。「水は、このふるまいを説明できる唯一の分子なのです」とTinetti氏は話している。
水は生命には欠かせないが、表面温度が摂氏700度もあるHD 189733bに生命は適さないだろう。しかし今回の発見は、系外惑星の気候を探るという新たな分野を切り開いた。同時に、将来地球サイズの岩石惑星に水蒸気を発見できるかもしれない可能性を示すものとなった。
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スペクトル
電磁波を波長(振動数)で分けたもの。分光器で電磁波を分離して得られる。身近な例では、可視光線をプリズムや回折格子に通すと、色(波長)によって光の成分が虹色に分離できる。分光によって得られた光を分析することによって、さまざまな天体の構成物質の種類や状態を調べることができる。スペクトルを研究する分野を天体分光学という。(「最新デジタル宇宙大百科」より)