生まれたての連星で、両方の星からジェットを発見

【2007年9月27日 神戸大学

すばる望遠鏡が、若い連星の片方からジェットが噴き出ているようすをとらえた。過去にはもう片方の星にもジェットが見つかっている。ジェット現象が単独の恒星に見つかる例は多いが、今回のケースは珍しい。連星はそれぞれ周囲に円盤を形成していて、両方から惑星が誕生する可能性もある。


(おうし座XZの想像図)

おうし座XZの想像図。クリックで拡大(以下同じ)(提供:国立天文台、日置智紀氏)

(すばる望遠鏡が撮影したおうし座XZ)

すばる望遠鏡が近赤外線で撮影したおうし座XZ。主星の方向からジェットが噴き出している(提供:日置智紀氏)

(HSTが撮影したおうし座XZ)

HSTが撮影したおうし座XZ。伴星の方向からジェットが噴き出し、先端に衝撃波が形成されている(提供:NASA, ESA, 日置智紀氏)

この研究成果は、日本天文学会2007年秋季年会を代表する研究として発表されている。

ガスやちりが重力で集まることで、恒星は生まれる。その際、物質は一度にくっつくのではなく、中心で形成されつつある星のまわりに円盤を形成し、回転しながら徐々に落下していく。そして、物質が集まることで解放されるエネルギーの一部が、円盤とは垂直の方向に物質を噴き出させ、これが「ジェット」として観測される。

恒星から噴き出すジェットは、その恒星が誕生して間もないこと、そして何より周囲に円盤が存在することを教えてくれる。円盤からは惑星が生まれる可能性もあるので、これらは重要な観測対象だ。しかし、輝きだした恒星はジェットに比べるとはるかに明るいため、ジェットを直接調べるのは容易ではない。

近年、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)や地上の大型望遠鏡に「コロナグラフ」を用いることで、ジェットの撮影に成功する例が増えている。コロナグラフは、小さなマスクをかぶせることで恒星の光だけをさえぎる装置だ。ジェットや円盤など、恒星のすぐ近くを観測する際に威力を発揮する。

しかし、ジェットの撮影に成功した恒星は、ほとんどが単独で存在しているものだった。実際には、すべての恒星のうち半分は単独で存在せず、複数の恒星(多くがペア)が重力で結びついた「連星」として存在している。2つの星からなる連星だけを考えても、その周辺の構造は複雑だ。両方の星に独立して円盤が形成されている可能性もあれば、2つの星をぐるりと囲むただ1つの円盤が存在する可能性もある。連星における円盤やジェットの撮影例はひじょうに少なく、単独星と連星とで星の誕生や惑星の形成がどう違うのかはよくわかっていない。

神戸大学大学院の日置智紀氏を中心とする研究チームは、コロナグラフを搭載したすばる望遠鏡で連星におけるジェットを撮影することに成功した。撮影したのは、おうし座の方向456光年の距離にある連星「おうし座XZ(XZ Tau)」。質量が太陽の0.4倍である主星と0.3倍の伴星が、太陽−冥王星間に相当する距離をおいてお互いのまわりを回っている。推定年齢は100万年で、同等の恒星の寿命が100億年であることを考えれば、まさに生まれたばかりだ。

2005年11月にXZ Tauを近赤外線で撮影したところ、主星だけがジェットを噴き出しているようすがとらえられた。実は、1999年2月にHSTがXZ Tauを可視光で撮影していて、このときは伴星の方から噴き出されているジェットを検出していた。2つの結果をあわせれば、主星と伴星の両方がジェットを噴き出していて、それぞれが独立に円盤を形成しているという結論が得られる。

すばる望遠鏡が主星のジェットだけをとらえ、HSTが伴星のジェットだけをとらえていることについては、2つの可能性が考えられる。1つは、ジェットが間欠泉のように噴き出したりやんだりしていて、6年の間に伴星のジェットがやんで主星のジェットが噴き出しはじめた(あるいは観測できるほど成長した)というもの。もう1つは、主星のジェットは近赤外線でしか観測できず、伴星のジェットは可視光でしか見られないというものである。

今回のように2つの星が両方ともジェットを噴き出しているようすは、「おうし座T」という連星でも観測されている。ひじょうに珍しいケースであり、恒星の多くを占める連星が、どのようにして生まれ、惑星を宿すにいたるのかを知る手がかりになるという。

<参照>

<関連リンク>

<関連ニュース>