WMAPの最新全天マップ公開、宇宙の10%はニュートリノだった

【2008年3月17日 NASA

NASAはマイクロ波観測衛星WMAPが5年間で得た全天マップの最新版を公開した。宇宙年齢38万歳の宇宙では、宇宙ニュートリノが10%を占めていたことなどが示された。これから仮説の淘汰が進むなど、宇宙論はますます熱くなりそうだ。


(温度ゆらぎの全天マップ)

WMAPの5年間のデータから描かれた高角度分解能の温度ゆらぎの全天マップ。わずかに高温な領域が赤、わずかに低温な領域が青で示されている。クリックで拡大(提供:NASA / WMAP Science Team)

(宇宙の組成比)

宇宙の組成比、上は現在、下は宇宙誕生38万年の時点の組成比。クリックで拡大(提供:NASA / WMAP Science Team)

(温度ゆらぎの分析結果)

温度ゆらぎの空間分布パターンを分析した結果。マップに含まれるまだら模様の大きさ(天球上の離角)と、模様の明るさ(温度変化の極端さ)を表している。第2と第3のピークは大きな第1ピークの倍音にあたる。第3のピークは今回のデータからはっきりした。実線は、観測結果に一番近い理論曲線。クリックで拡大(提供:NASA / WMAP Science Team)

WMAP(ウィルキンソンマイクロ波異方性探査機)が5年間で得た観測データが米国東部時間2008年3月7日に公開された。初期宇宙の密度ゆらぎを反映した全天の温度分布マップが最新版に更新され、研究者の間では最新データにもとづく新たな議論が始まっている。

私たちのもとに到達する宇宙最古の光は、宇宙年齢38万歳(光子が電子に邪魔されずに進めるようになった「宇宙の晴れ上がり」の時点)における温度約3000K(補足参照)の放射であるが、その後の宇宙膨張によって現在では平均2.725Kの宇宙マイクロ波背景放射として観測される。WMAPは宇宙のあらゆる方向における宇宙マイクロ波背景放射の強度を精密に測定し、方向によるごくわずかな異方性(温度ゆらぎ)をとらえ、「宇宙の晴れ上がり」の時点における宇宙の姿を明らかにしてきた。3年間分の観測データからは、宇宙年齢が137億歳と精度良く求まった。NASAは、今回新たに公開された5年間分の観測データから、少なくとも3つの新しい知見がもたらされるとしている。

ひとつは、宇宙年齢38万歳の時点において、宇宙ニュートリノが宇宙の組成の10%を占めていたということだ。当時の宇宙の組成はこの他に、原子12%、光子15%、ダークマター(暗黒物質)63%だったということが示された。

温度ゆらぎの空間分布パターンは、宇宙の幾何学的性質、宇宙の組成、密度ゆらぎの初期分布などを反映したものであり、宇宙論パラメータの観測的な証拠となるものだ。パターンを分析すると、楽器の弦をはじいたときのように、初期の宇宙に「固有の音階」が強くこだましていることがわかっている。5年間分のデータからは、初めてその第3倍音にあたるピークがはっきりととらえられた。このことは、初期宇宙の宇宙ニュートリノに関する情報をもたらしている。

2つめの知見は、宇宙の暗黒時代が終わった時期が示唆されることだ。電子が自由を奪われ光子が直進できるようになった「宇宙の晴れ上がり」の時点から、宇宙最初の世代の星が誕生しその放射により周囲の原子から電子が再び自由になって「宇宙の霧」となるまでには、4〜5億年はかかったようだ。

3つめは、急激な加速膨張で宇宙の平坦性などを説明するインフレーション宇宙モデルに関して、今回のデータから制約条件を課すことができるということだ。現在仮説として乱立しているさまざまな理論は淘汰が進み、今後整理されていくことになりそうだ。

WMAPの観測データは、現在の宇宙の大半を占めているダークマターやダークエネルギーの正体を解き明かす上で貴重な鍵となる。宇宙はどのように生まれそして現在の姿になったのか。人類による宇宙最大の謎解きはこれからも続いていく。

(補足)K(ケルビン)は絶対温度の単位。摂氏温度に約273.15を加えた数値になる。