最先端のシミュレーションが示す初期宇宙での星形成
【2008年8月6日 国立天文台 アストロ・トピックス(403)】
宇宙の歴史で最初の数億年は、まだ観測されていない暗黒時代だ。この時代に初めて誕生した天体とはどのような姿だったのか、計算機によるシミュレーションで迫った研究成果が発表された。
アストロ・トピックスより
宇宙で最初の天体はどのようなもので、いつどのように形成されたのか、観測的にはまだわかっていません。実際に宇宙で最初に形成された天体が観測できるようになるのは、まだまだ先のことで、今のところ数値実験がこれを探ることができる唯一の方法と言ってもよいでしょう。そして、計算機の中では、初期宇宙でどのように、どんな天体が形成されたのか、明らかにされつつあるのです。
名古屋大学、国立天文台、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの3人の研究者(注1)は、並列コンピュータを用い、初期宇宙での天体形成について調べました。標準宇宙論に基づいて仮想的な初期宇宙を計算機の中に作り、その時間発展をシミュレーションしたのです。
従来の数値実験では、ガスの化学反応や電磁波との相互作用は近似や経験則によって簡略化されていました。しかし、この研究チームは、そのような近似を行わず、物質の物理・化学過程を逐一計算するという手法をとりました。そして、仮想的な初期宇宙に広がる薄いガスが、重力によって集まり、原始星(注2)になるまで、約25桁にもわたる密度の変化を計算したのです。
この研究チームの数値実験では、ビッグバンから約3億年後に、質量が太陽の100分の1ほどの原始星が誕生しました。続いて行われた別の数値実験から、この原始星は、まわりのガスを集めて、太陽の10倍から100倍の質量を持つ大質量星に進化すると推定されました。
研究チームは物質の物理・化学過程を逐一計算することによって、宇宙初期に存在したわずかな物質密度のゆらぎがあれば、自然に、膨張宇宙の中で天体が形成されることを世界で初めて示したのです。そして、一連の数値実験から、宇宙で最初の天体は、質量の大きな個々の星だったことが予想されています。
この研究成果は、8月1日発行の米国の科学雑誌「サイエンス」に掲載されました。
注1:研究チームのメンバー
- 吉田直紀(よしだなおき、名古屋大学大学院理学研究科素粒子宇宙物理学専攻)
- 大向一行(おおむかいかずゆき、国立天文台理論研究部)
- Lars Hernquist(ラース・ハーンキスト、ハーバード・スミソニアン天体物理学センター)
注2:原始星とは、誕生の初期段階にある恒星のこと。原始星は、やがて、おうし座T型星という進化段階を経て、中心で水素の核融合反応が起こっている主系列星に進化する。我々の太陽や夜空を彩る星々の多くは主系列星である。